表紙
明日を抱いて
 149 祭の後でも




 みんなが一足早いクリスマスのご馳走をお腹一杯詰め込んだ後、腹ごなしにダンスが始まった。 来ている客がみんな若いので、楽団も年齢に合わせて流行のラグタイムを弾き、踊り好きな連中がホールを埋めた。
 騒ぎが嫌いな人々は、座ってダンスを眺めているか、友達と雑談していた。 エイプリルは、仲間に入りたいのにうまく溶け込めない客を探し出しては話しかけ、合いそうな人を紹介したり、はにかみ屋でもできるトランプのゲームに誘ったりした。ジェンもその様子を見ていて、忙しいエイプリルを助けに行って手伝った。
 エイプリルは本当に、生まれつきの理想的な女主人だった。 二百数十人の客には血気盛んな男子が多く、普通なら一回や二回は小競り合いや喧嘩が起きそうなものだが、そんな騒ぎは一切ない。 どこかなごやかなのんびりした雰囲気がただよっていて、人々はエイプリルの企画通りに動くのを楽しんでいた。


 ダンスを四○分ほどで一度打ち切った後、小話の決勝戦が行われた。 分けた組で一番受けた話を、声がよくてユーモアのあるダグがみんなの前で読み、最高傑作に投票する。 優勝したのは、『亀とシンデレラが、デトロイトの裏町で、追いはぎをして全速力で逃げた』というナンセンスな話で、ジェンはフッと笑ったぐらいだったが、なぜかトップに選ばれた。


「話はいまいちだったわね」
 キャスが遠慮なく感想を述べたが、エイプリルは気にしなかった。
「いいのよ。 みんなが知り合いになるチャンスをできるだけ多くしたかっただけだから。 ほら、あっちこっちで人の輪ができてる。 新しい友達やカップルが一組でもできれば、私は満足」
 そう言って大時計に目を向けると、そろそろ八時半を回っていた。
「さあ、最後の抽選会をして、いよいよお開きよ。 みなさん! 抽選券は持ってますか? 抽選箱は二つです。 赤が女性用、緑が男性用。 係に抽選券を渡して、枚数分だけ引いてくださいね」
 誰もが一枚は券を持っていた。 箱の中には紙を四つ折りにしたものが入っていて、開いて読むと、賞品を隠した場所と通し番号が記入してあった。
 最後の宝探しが始まった。 広い室内を客たちは活発に歩き回って、椅子の下や絵の裏、クッションの陰などに隠してあった賞品目録を見つけ出し、さっき引いた紙の番号と同じものを持ち帰った。
 今回の賞品は、手袋とマフラーだった。 二枚引いた人は両方もらえる。 手袋はサイズが豊富で、質は革と毛糸編みの二種類用意されていた。
「どちらも町の作業所に頼みました。 皆さんが今日、来てくれたおかげで、作業所の人たちはクリスマスを無事に越せ、子供たちに贈り物が買えました。 彼ら、彼女たちのサンタクロースは皆さんです! だから身も心も温かく、お好きなものを持ち帰ってください。 メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
 人々は拍手し、なかなか上等な手袋を試着しては、ぴったりサイズを持っていった。
 ジェンは二枚引いたので、ふかふかの水色のマフラーと、揃いの毛糸の手袋を貰った。 ジョーディも二枚で、革の手袋と茶色のマフラーを持って戻ってきた。
「残りは教会のバザーに寄付するんだそうだ。 エイプリルらしいな」
 楽団が軽快な音楽をかなでる中、人々はエイプリルに心を込めて挨拶し、帰路に着いた。 手が大きすぎて合う手袋がなかった粉屋のラスティと、逆に手が小さすぎたデビーの妹メアリアンは、注文で作ってもらうことになり、お詫びとしてバンダナを渡されて、機嫌を直して帰っていった。
 ジェンやデビーなど仲良し組と、その付き添いたちは、エイプリルの後片付けを手伝ってもう一時間ほど残った。 使用人たちと一緒に椅子やテーブルの配置を直していたジョーディとジェリーは、なかなかよく動いていたが、ハウイはマージの後ばかり目で追っていて、あまり使い物にならなかった。
「おれ、できるだけ早く結婚する」
 彼が思いつめた様子でそう言い切るので、ジェリーは半笑いになって肘で突いた。
「今日だけでも、それ二○回は聞いた」
「不安なんだ。 医科大学は町にあるだろ? マージはあんなに美人だし。 あの子が目移りしないうちに、しっかり嫁さんにしとかないと」
「あんまり押しまくると嫌われるぞ」
 ジョーディがそっけなく言い、重いテーブルの端を軽々と持ち上げて運んでいった。  





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