表紙
明日を抱いて
 148 陽気な食事




 あぶれ者たちのほうが楽しい思いをしていることに客たちが気づかないうちに、エイプリルは彼らを二十人ずつ九組に分けて、予選会を始めた。
「できた小話を三枚の紙に分けて書いてくださいね。 誰が、どこで、何をした、と、別々の紙に」
 『誰が』は赤い紙、『どこで』が緑の紙、『何をした』が普通の白い紙に書くことになっていたので、ごちゃごちゃになる心配はなかった。 みんなが書き終わると、紙は色分けで三つの箱に収まり、外側からは見えなくなった。
「では、お話を読みたい人を募集します。どの組でも一人か二人お願いします」
 そこでウィンクして、エイプリルは続けた。
「読み手にはホッブスさん特製のサイダーをプレゼントしますよ」
 一同は色めき立った。 ホッブス家のサイダーが特別おいしいのはこの辺りでは有名だ。 すぐ売り切れて、なかなか手に入らないのだ。
 またたく間に読み手が決まり、各組で発表会が行われた。 といっても難しいことではなく、読み手が箱に手を突っ込んで、適当に取り出した紙を順番に読めばよかった。
「一番受けた組み合わせを残しておいてください。 予選通過とします。 誰が書いたかは関係ないですよ」
 そう言い残して、エイプリルは晩餐会の支度を監督しに、屋敷の奥へ入っていった。


 偶然のいたずらで主語と動詞が入れ替わった小話は、実にばかげた結果を生んだ。 あちこちで爆笑の渦が沸き、もっとも笑いを取った組み合わせが選ばれて、テーブルの真ん中に置かれた。
 ペリーとジャニスがその組み合わせを回収して読み手の名前を書き、帰りにサイダーを渡すからと約束して、持って行った。


 間もなく、みんなが楽しみにしていたクリスマス晩餐会が始まった。 二室続きにした大食事室には長テーブルだけでなく、丸や正方形のテーブルが花びらのような形に置かれて、それぞれ椅子の数に合わせて料理が並べられていた。
「一緒に来た方と席を取ってくださいね。 全部のテーブルが偶数席になってますから。 早く食べ終わった方は、向こうのダンス室で楽しんでください。 その隣の部屋ではビリヤードやピンボールができます」
 エイプリルの説明の後、人々はてんでに席を選んで、まずいろんな飲み物で乾杯した。 料理は二五○人分も並んでいて、足りなくなる心配はなかった。


 結束が固いゲインズフォード中学の卒業生たちは、自然と長テーブルに集まって、なごやかに会話しながらご馳走を口に運んでいた。 ジェンは右がジョーディ、左がエディという女子学生がうらやむ特等席につき、前や斜め横の女友達とも食べる暇がないほど活発に話を交わした。
「ポリーは間に合わなかったわね」
「そうなの、エイプリルが勤め先まで招待状を送ったんだけど、この忙しい時期でしょう? ぎりぎりまで故郷に帰してもらえないらしいわ」
 マージが残念そうに答えた。
 そこへ準備を終えたエイプリルがようやく合流して、仲間たちの歓声に迎えられた。
「よう、やっと来たね」
「お疲れ様! こんなたくさんの料理、どうやって確保したの?」
「グランドラピッズとランシングの料理店に、早くから予約を入れといたの。 それでもなかなか届かなくてね、冬なのに冷や汗かいちゃったわ」
「すごいわね〜エイプリルは。 どんなお屋敷の奥方になっても誰より立派にやっていけるわ」
 デビーが息を弾ませて感心した。 エイプリルはにこっと笑みを返したが、青い眼はどことなく悲しそうだった。  





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