表紙
明日を抱いて
 145 年末の祝宴




 その年のクリスマス前にエイプリルが開いたパーティーは、何年も語り草になるほど素敵なものだった。  豪華だったからではない。 ウィンターズ家の財力からすれば、いくら派手な舞踏会を開いても、周りは驚かなかっただろう。 エイプリルの企画はそんなものではなかった。
 彼女は広い自宅を活用して、中学時代の同学年生全部と、高校に入ってから一言でも口を着たことのある全員を招待した。 その条件が、『正装してこないこと。 温かい服装で来ること。 どこか一箇所、変装すること』
 結果、十二月二十日の会場には、ちぐはぐな格好をした若者たちが大集合することになった。
 玄関で受付のペリーとジャニスに招待状を渡して、客たちは続々と入ってきた。 かわいい受付係の二人は、どちらもサリーの弟妹だ。 きょうだいの中で、特にこの二人はサリーに似てしっかりしていて、バイト代が稼げるため張り切って招待状を名簿と合わせてチェックし、コートやマントを受け取って引き換え証を渡しては、奥にしまっていた。


 ジェンはもちろんジョーディにエスコートされて、早い時間にウィンターズ邸を訪れた。 ジェンは母が面白がって作ったウサギの耳つきの白い帽子をかぶり、ジョーディは腰に格好いい海賊の剣を差していた。
 招待客は、自分の他にもう一人、連れてきていいことになっていた。 だから同性の仲良しやカップルの相手と来る場合が多く、単独で訪れたのは男子が数人だけだった。 女子は帰る時のことを考えて、兄妹や雇い人を連れてきていた。


 五時開始のパーティーは、十分後にはほとんどの客が来て、広い舞踏室と控えの間に人があふれかえった。 クリスマスらしく赤と緑のチェックのクロスで覆われたテーブルには、湯気を立てたエッグノッグやホットレモネード、ココアがパンチボウルのような大きな入れ物にたっぷり入って置かれていて、好きなものを飲んで温まれるようになっている。 さっそくジョーディがエッグノッグを二杯持ってきてくれて、ジェンは柱の横で彼と仲良く飲んだ。
「すごいな、この人数。 二百人はいるぜ」
「今ちょっと数えたら、二三五人いたわ。 中学のときのパーティーが噂になってて、みんな楽しみにしてるようよ」
 そこへハウイとマージが合流した。 長年の恋が叶ってから、ハウイは本当に幸せそうで、地味な顔がちょっとハンサムに見えてきたと、一部で評判になっていた。
「やあ、もうじきエイプリルが一発目の仕掛けをぶっ放すらしいよ。 どこから来るのかな」
 ハウイがそう言いおわる前に、吹き抜けの二階に陣取った楽団がファンファーレを吹き鳴らした。 人々は雑談を止め、一斉に楽団に注目した。
 そのときだった。 かわいらしい羊飼いの娘に変装したエイプリルが二階の手すり越しに身を乗り出し、客たちに手を振って挨拶した。
「こんばんは〜!」
 皆も声を合わせて挨拶を返した。
「こんばんは!」
「よくいらしてくださいました。 ではまず最初のゲームはこちらです」
 そう言ってエイプリルが合図すると、高い天井を覆っていた波のような飾り布の間から、しずしずと大きなクス玉が二個、ゆっくりと下がってきた。
 同時に、ペリーとジャニスが籠を持って会場を回り、布でできたボールを客たちに渡していった。
「楽団が曲を演奏し終わったら、そのボールでクス玉を割ってください! そして、出てきたものを一人が一つずつ拾ってね。 二つ拾ったら誰かにあげること。 独り占めはだめですよ」
 エイプリルの陽気な呼びかけと共に音楽が始まり、すぐに終わった。 たちまち広間は、投げ上げるボールがミツバチの群れのように飛び交う修羅場と化した。 女子もきゃーきゃー言いながら投げていたが、クス玉までなかなか届かない。 男子はここぞとばかり張り切って、落ちてくるボールを受け止めては力いっぱいクス玉にぶつけた。
 





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