表紙
明日を抱いて
 144 変わった恋




 ジェンの高校二年は、光と色彩に満ちた年になった。 実父との約束を守って勉強にいそしむかたわら、招かれる行事には片っ端から参加し、親友たちとの食事会も忘れず、秋の体育祭には応援団長に担ぎ出されて広い校庭を飛び回った。
 高校で新たな友人もたくさんできた。 洗濯を請け負ったバンクス夫人が、村の評判とは違って真面目ないい人で、おまけに男の子を二人元気に育てた経験者だったため、コニーは次第に気を許して、双子の遊び相手になってもらった。 そのおかげで、ジェンは友達付き合いの時間を取れるようになり、過労でぶっ倒れる心配はなくなった。


 その年は冬将軍が早く訪れた。 またエイプリルの大型橇(そり)の季節だ。 軽やかな鈴の音と共に走る橇には、カップルと認められた男女が自然と隣り合わせに座るようになった。 そうしないと、二人で待ち合わせることが多いので、時間がずれて出発できないのだ。
 中学からの友で、高校に入って付き合うようになったのは、デビーとダグだった。 デビーはサリーの対抗馬でしっかりした性質のダグに交際を申し込まれたとき、あまりにびっくりしてほんとに自分の顔をつねりそうになったという。
 一方、ずっとマージに夢中だったハウイは、生まれて初めてといっていい勇気を奮い起こして、彼女に言った。
「君は立派な女医さんになるつもりなんだろう? だったら町の医学校へ行かなくちゃいけない。 そんなところに一人で行かせるのは心配だから、僕も近くの学校に入るよ。 どこを目指してるか教えてくれ」
 マージはハウイが恐れたように笑わず、怒りもしなかった。 ただ目をパチパチさせて、こう答えた。
「父の母校よ。 おととしから女子も入れるようになったの」
 それから、破裂しそうなハウイの心臓の上に手を置いた。
「やっと言ってくれたのね。 永久に黙って見ているだけかと思っちゃったわ」


 そして肝心のジェンはというと、ほとんど毎日、ジョーディと一緒に家路に着いた。 こうなるのはわかっていたとデビーは得意げに言い、皮肉屋のキャスは鼻を鳴らした。
「ジェンまで男を顔で選ぶの?」
「そうじゃないわ」
 ジェンは驚いて否定した。 そのときはたまたま二人きりで、分厚い宿題の紙ばさみを胸に抱えて、学校の廊下をせかせかと歩いているところだった。
「彼といると、なんか自然なの。 普通すぎて、今だってほんとのカップルかどうか、よくわからない。 ジョーディはやさしいし、よく付き添ってくれるけど、友達に毛が生えたぐらいなのよ」
「どんな毛?」
 キャスは遠慮なくからかい、ジェンが顔を赤らめるのを楽しんだ。
「キスぐらいはしてるわよね?」
 ジェンはつまずきそうになって下を向いた。
「……まだ」
 キャスはあきれて白目になった。
「そんなの恋人と言わないでしょう! まったくジョーディったら、あなたを独占しといて何やってるの」
 それは確かに事実だった。 三日遅れで学校に戻ってきて以来、ジョーディは公然とジェンを誘うようになり、通学の行き帰りには鞄を持ってくれ、食堂で隣に座った。 あまり堂々と行動するため、ジェンにあこがれていた男の子たちは勢いに押されて、指をくわえて見守るしかなかった。
 その割に、ジョーディは紳士的だった。 紳士的すぎた。 トレメイン川での待ち合わせは続いていたが、話すのは自然と動物と学校生活の話題だけで、せいぜい帰りに手をつないで歩くぐらいだった。
 それでもジェンは嬉しかった。 ジョーディが相変わらず他の女子には目もくれず、自分だけを選んでくれたから。





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