表紙
明日を抱いて
 43 友が戻った




 ジェンが家へ帰って、目の回るような忙しさに身を置いているうちに、あまり準備できず新学年が始まった。 学校に戻ってこられるかどうか、中学の仲間たちが心配していたエイプリルも、初日から元気な姿を現して、みんなをホッとさせてくれた。
 一方、ジョーディは初日と二日目は来なかった。 だが、ジェンが内心がっかりし、親友のジェリーは落ち着きをなくしかけた三日目、いつものように食堂へ昼食を食べに行くと、ジョーディが窓際の席に座って定食の皿を前にしていたので、二人ともびっくりした。
「よう、帰ってたのか!」
 そう呼びかけて飛んできたジェリーに、ジョーディは淡々とした笑顔で応じた。
「さっきな。 ちょっと予定より遅くなった」
「実家へ帰るとき様子が変だったから、もう学校辞めちゃうんじゃないかと心配してたんだ」
「辞めるなら知らせるよ。 黙って消えたりしない」
 そうきっぱり言うと、ジョーディはジェリーの後ろから顔を覗かせたジェンにも微笑んだ。
「久しぶり。 どうだい、一緒に食べないか?」
 ジェンの頬が驚きでバラ色になった。 ジョーディに人前で誘われたのは初めてだ。 ジェリーは驚かず、ちらっとジェンを振り返ってすばやくウィンクした。 そして、さっさと自分も椅子を引いた。
「オレもここにする。 お邪魔かもしれんけど」
「邪魔って言ったって座るんだろう?」
 ジョーディの軽口に、今度こそジェンは真っ赤になってしまった。


 トローブリッジ高校の校舎は大きく、食堂も立派だ。 学生たちの食べ方にはいろんな種類がある。 お弁当を持ってきてもいいし、二種類ある定食を食券で買うのも自由だ。 窓口ではミルクやジュース、簡単なデザートなどを売っていた。
 ジェンはほぼいつもお弁当だった。 女子にはその形が多い。 男子はあまり食事に気を遣わず、簡単に定食で済ませる子がほとんどだった。
 窓際のテーブルで、三人は和気藹々〔わきあいあい〕と食事を取りながらおしゃべりした。 高校ともなれば、男女が一緒にいて目くじら立てられることはない。 現に、おたふく風邪から無事に生還したハンサム・エディは両手に花どころか、長テーブル一杯の女子と楽しげに食べていた。
「ジェンはシカゴへ行ったんだってな?」
 ジェリーがうらやましそうに話しかけてきた。
「オレなんかサウスベンドまでしか行ったことないんだぜ。 シカゴってデトロイトより大きいか?」
「そうねえ、感じが違うわ。 デトロイトは工場が多いけど、シカゴは高いビルが一杯」
「ニューヨークともまた違うよな」
 そう言ったのはジョーディだった。 固めの肉を平らげた後、彼はマッシュポテトとゆでたニンジンに取りかかっていた。 食べ物の好き嫌いは特にないらしい。
「こっちは夏のニューヨークに寄ったんだ。 もう暑いの何のって。 あそこには家買って住みつきたくないな。 夏は暑いし、冬もこっち並みに寒いんだぜ」
 都会好きなジェリーは目を光らせて身を乗り出した。
「へえ、その夏のニューヨークで何してた?」
「博物館と図書館巡り」
「えー〜〜!」
 ジェリーがすっとんきょうな声を出した。
「何だそれ?」
「オレさ、やっと目標を決めたんだ。 設計家になる」
 そう宣言したジョーディの顔は、久しぶりにくまなく明るかった。





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