表紙
明日を抱いて
 136 熱烈な歓迎




 ビル・メイトランドがコニーを救って、直後に締め出されてから何があったのか、目撃者がいないからわかっていない。 ただ、一緒にいた友達の一人ダニーの推測だと、翌日にビルは午後から出かけて、何時間も帰ってこなかったから、たぶんコニーと会って誤解を解き、口をきいてもらえるようになったのだろうということだった。
 それが一番難しいのだ。 コニーの『壁』を若き日のビルがどう乗り越えたのか、ジェンはしばらく考えてみたものの、思いつかなかった。
 ともかく、二人の交際は急速に発展し、ビルはコニーに求婚して受け入れられ、未来の花嫁を東部へ連れて行った。 まさに嵐のようなスピードで、出会ってから婚約するまで二週間しかかからなかった。
 お父様はお母さんに、逃げる暇を与えないようにしてたんだ──ジェンはそう悟った。 他の女性が相手なら、そんなにすぐのぼせあがると後でゆっくり後悔するぞ、と言われそうな出会いだ。 しかし相手がコニーなら、ビルの作戦は間違いではない。 コニーは非常に義務感の強い性格で、約束したことはきちんと守る。 そうするのが喜びでもある。 社交界という巨大な圧力がなかったら、コニーはビル・メイトランドのつつましやかな美しい妻として、なんとか暮らしていけたかもしれない。 ビルもはにかみ屋の妻をしっかり庇い通しただろう。 不器用なミッチが今、がんばってやっているように。
 ビル・メイトランドは王子様にふさわしいかもしれないが、コニー・バーンズはシンデレラじゃないし、そうなりたくもなかったのだ。 ジェンは偶然にも夢のように美しく生まれてしまったコニーと、見た目の幻に心を奪われた多くの男たちを思って、なんだか悲しい気持ちになった。


 列車が十五分遅れで故郷の駅についたとき、ジェンはすぐホームでうろうろしているミッチを見つけて、まだ汽車が止まる前から荷物を掴んで昇降口に向かった。 段の上で呼びかけながら手を振ると、ミッチはすぐ振り向いて、走ってきた。
「おとうさん!」
「ジェン!」
 まず荷物を受け取って足元に下ろすと、続いてミッチはジェンを段からもぎ取るように抱き取り、ぐるぐると二度回して、背中を荒っぽくさすった。
「お帰り」
「ただいま。 元気そうね」
「もちろん。 うちのみんなも元気だ。 ただ、すごく寂しがってる。 コニーなんか話し相手がいなくて爆発しそうだなんて言ってたぞ」
「ウォーリーとアンディも寂しがってた?」
 ジェンは冗談のつもりで言ったのだが、ミッチはそっと彼女をおろし、荷物を軽々と手に持ちながら、重々しくうなずいた。
「だから言ったろ? みんな寂しがってたって。 あいつら、コニーとオレに順番に抱かれた後、必ず見回しておまえを探すんだ」
「ちゃんと三人まで数えられるのね。 賢いわ」
 またジョークを飛ばしながら、ジェンは故郷が嬉しくて忘れていたことに気づいた。
「たいへん、列車が出ちゃう。 ゴードンさんたちにお別れを言わなくちゃ」
 振り向いて列車の前に戻ると、一家は窓を大きく開いて交互にジェンと手を取り合った。
「じゃ、また冬休みに。 今からもう待ち遠しいわ」
「手紙じゃんじゃん書くわね。 写真も送る。 ジェンもちょうだいね」
と、名残惜しそうにワンダが叫んだ。
「もちろん。 じゃ皆さんお元気で」
 ピーターは窓から腕を伸ばして、ジェンの鼻を軽く押した。
「僕も久しぶりに手紙書くかなあ。 トニーは書いてるんだろう?」
「ええ、あちこちから。 エネルギーの塊ね、トニーは」
 ゆっくりミッチが近づいてきて、帽子を浮かせて挨拶した。
「この度はジェンに骨休めさせてくれて、ありがとう」
 ゴードン夫妻は、少し複雑な表情でジェンの義父を見返し、あいまいに微笑んで別れを言った。 これから家に帰って聞くジェンの話に、この人はどう反応するだろうといぶかりながら。 ミッチが別人のように明るくなったのは、新しく生まれた双子のせいだけではないらしい。 義理の娘を交えた一家の団結がいっそう固くなっているのをじかに感じて、二人はビルの長期計画がうまく実を結ぶかどうか、心配になってきていた。





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