表紙
明日を抱いて
 132 義父の為に




 封書をジェンに渡した後、メイトランドは学校生活について尋ねた。
「小さいころからずっと優等なんだって?」
 ジェンは答えをためらった。 サリーのような活発な優等生なら自慢になるが、自分はどちらかというと真面目に授業を受けているだけのような気がする。
「勉強はちゃんとしていますけど、特に優れた学科はないです」
「万能の秀才の何が悪い?」
 そう言い返して、メイトランドは目じりに皺を寄せて笑った。
「何が向いているかは、そのうち自然にわかってくるよ。 学校は楽しいかい?」
「はい」
 これはすぐ答えられた。 メイトランドは大きくうなずき、両手をテーブルに載せて少し眺めていたが、やがて思い切って提案した。
「君の成績なら東部の一流大学を選べるはずだと、セリナが言っていた。 どこでもいいから、来てくれると嬉しいんだが」
 答える前に、ジェンは自分の心に訊いてみた。
 これまで考えてもみなかったが、実の父は母と別れたかったわけではなく、子供ができたことさえ知らされていなかった。 長い年月が経ってようやく知り、仰天しただけでなく、その子に何としても会いたがった。 責任を取らない、取りたくない男が、世の中にはたくさんいるというのに。
 責任感の強い父が、傍に来てほしいと願っている。 他に思惑があるのかもしれないが、意思が強いのは確かだった。 こんなに自分そっくりの女の子が現れたら、醜聞が巻き起こるのは避けられない。 だがメイトランド氏は、そんなことはまるで気にしていないようだった。
 きれいに磨いた爪から目を上げ、若さに輝く娘の瞳を見つめて、メイトランドはしみじみと言った。
「わたしの近くに来たら辛いのは君だ。 わかっている。 十代の子というのは未完成だから、意地悪もされるだろう。 それでもできるだけ守るつもりだ。 そして君を周りに認めさせる。 親として、それだけの力はあるつもりだ」
 親として……。 ジェンの胸が熱くうるおった。 その言葉だけで充分だと思った。 だから自然に答えが出てきた。
「東部に来られたら、来たいと思います」
 とたんに父の顔が嬉しさに紅潮したため、ジェンは急いで言い添えた。
「ただし、その大学の奨学金が取れたらです。 私立の大学は月謝が高いと聞きました。 マクレディの父に負担をかけたくないんです」
 言いたくなかったが、ミッチの名を出さないわけにはいかなかった。 メイトランドの頬から赤みが引き、視線がわずかに険しくなった。
「学費なら……」
「いいえ」
 この点では、ジェンは一歩も譲る気はなかった。 コニーは自分自身に負けて逃げ帰ってしまったという負い目がある。 だが夫になったミッチには罪はない。 コニーを迎えに行ったかもしれないが、略奪したわけではないし、血のつながらないジェンを引き取って、我が子同様に愛してくれた。 そんな『おとうさん』の自尊心を傷つける真似は、ジェンには絶対にできなかった。
「あなたに出していただくことはできません。 うちの周りの農家ではみんなそうです。 自分で働いて貯めるか、親に借りても、卒業したらコツコツと返します」
「しかし……」
「気を悪くされたのなら、申し訳ないと思います」
 ジェンは自分ではわからずに、ずいぶん優しい声に変わっていた。
「あなたはいい方です。 こんな言い方は生意気ですけど。 もっと早く会いたかったと思っています。 だからいっそう努力して、東部の大学の奨学金が取れるようがんばります。 もし駄目だったら夏休みまでにお金を貯めて、東部に旅行します。 あなたともっと……よく知り合いたいから」
 言葉はぎこちなかったが、気持ちは確かに伝わったらしい。 メイトランドはそれ以上押すのをあきらめ、寂しげな笑みを浮かべた。
「大したものだ。 社交界の若い男たちより、君のほうがずっと骨があるよ」





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