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127 公園で泳ぐ
食事が終わると、アランと密かに打ち合わせしたらしいピーターが、先手を打って父に尋ねた。
「午後はお嬢さん方を公園へ連れて行く約束をしたんですが?」
普段は友達のような親子だが、周りに他の大人がいるとき、ゴードン家の子供たちはきちんと両親に敬語を使った。 そういうめりはりの効いた態度が、ジェンは昔から好きだった。
ゴードン氏はその提案を聞くと、ちょっと困った表情を浮かべて友人に目をやった。 メイトランドはわからないほどかすかにうなずいた後、淡々と言った。
「ここには立派な公園がいくつもあるからね。 どこへ行くつもり?」
ピーターが答えるまで、一瞬だが間が空いた。
「グラントパークにしようと思ってるんです」
すぐワンダが手を打って喜んだ。
「わぁ素敵! あそこは綺麗な散歩道が湖を巡っていて、おしゃれなテニス場もあるのよ」
「じゃ、すぐ支度をしておいでよ。 早く行けばそれだけ長く遊べる」
ピーターがすかさずそそのかした。 渡りに船と、ジェンもそわそわとテーブルナプキンを置いて立ち上がり、大人たちに挨拶もそこそこにワンダと連れ立ってエレベーターへ向かった。 結局食卓では、一度もメイトランド氏と言葉を交わすことはなかった。
ゴードン氏は馬車の手配をさせるつもりだったらしいが、ピーターはやんわり断った。 三人でホテルを出ると、もう無蓋の大型馬車が来ていて、フォーブス兄弟が先に乗り込んで騒ぎながら待っていた。
「やっと来たね! 許可が出なかったんじゃないかと心配したよ」
アランがジェンに手を差し出して、乗るのを助けながら言うと、ロバートのほうは鼈甲縁のメガネを外して胸ポケットに入れ、とびきり顔をゆがめて信じられないほど変な表情を作った。
「うほい、これでやっと世の中がよく見える」
アランはため息をつき、兄の上着のポケットからメガネを取り返して自分の胸にしまった。
「これは父さんの古い眼鏡なんだ。 かっこいい大人に見せたいからってロバートが持ち出してきたんだけど、度が入ってるから周りがぼけてよく見えないんだよ」
ロバートは顔の中で眼が一番きれいなのに──ジェンは夢見るような茶色の瞳を見返して、本当に不思議な人だと改めて思った。 ロバートが次に何をしでかすかは、生みの母にもわからないらしい。
真夏で平日の公園は空いていた。 気温は高いが、木陰に入ると湖を渡ってくる涼風が心地よい。 ワンダが手際よく水着を二枚持ってきていて、ジェンに貸してくれたため、二人は着替え用の馬車に入って、分厚いジャージのフリルつきワンピースといった形のものを身につけた。
水着には寝室用キャップに似た帽子までついていた。 紺と黒の水着をまとって馬車の裏口からそっと水に入ると、暑い日でも二五度がせいぜいの冷たい湖水が足にまとわりついてきた。
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