表紙
明日を抱いて
 118 夫妻の説得




 翌朝十時、朝食を済ませたゴードン夫妻が、いそいそとマクレディ家を訪れてきた。 二人は本当に善意の人で、ウォーリーとアンディを見ると、息子たちの幼い日を思い出し、夢中でかわいがった。
「トニーにもこんなに小さいときがあったんだよ。 君には信じられないかもしれないがね」
 アンディを高い高いして喜ばせながら、ゴードン氏はそばで見守るジェンにウィンクした。 ジェンはにこにこして答えた。
「もちろん信じます。 ピーターが大暴れして揺りかごから落ちたところを、確かに見た覚えがあるんですから」
「まあ、自分も赤ちゃんだったのに? すごい記憶力ね」
 ウォーリーをあやしていたゴードン夫人セリナが笑いながら口をはさんだ。
「ピーターが来られなくて残念だわ。 私たちが起きる前に、さっさと湖へ行ってしまったの。 ホテルの近くで、前に来たとき友達になった子に出会ったらしいわ。 出発時間までにちゃんと戻ってくるといいけど」
 ちょっぴり寂しい気持ちを隠して、ジェンは明るくアンディをゴードン氏から受け取った。
「もうピーターも高校生だから、男の付き合いがあるんでしょうね」
「あの子はそんなのばっかり」
 セリナは溜息をつき、手を振り回してはしゃぐウォーリーにかがみこんだ。
「ね? お兄ちゃんったら勝手よね? あなたが大きくなったら、もっと思いやりのある紳士になるのよ」
「ウォーリーはちゃんとした農場主になるんだ」
 柱に寄りかかっていたミッチが、そっけなく口を入れた。 すぐにゴードン氏が後を引き取って、角が立たないように収めた。
「もちろんそうだとも。 立派な農場主は、時には厳しくなきゃ」
「わかっているわ。 でもねミッチ、あなたは怖い顔をしてみせても、中身は真の紳士よ。 本物の騎士と言ってもいいぐらい」
 セリナがいきなりしみじみと言い出したので、ミッチはぎょっとなって後ずさりし、寄りかかっていた柱につまずきそうになった。
「やめてくれよ奥さん」
「奥さんじゃないでしょ? いいかげん名前で呼んで」
 少し怒ったように言い返してから、セリナはトニーによく似た濃い蜂蜜色の瞳で、助けを求めるように義理の娘を見つめているミッチを見上げた。
「あなたは奥さんを大切にし、奥さんをあんなに幸せにしている。 すばらしいわ」
 それから、何か言いたそうな夫を見て、いたずらっぽく微笑んだ。
「私にとってはジョージの次に尊敬できる男性よ。 だからジェンにも、あなたみたいなすばらしいお相手が見つかればいいと心から願っているの」
「手っ取り早く言わせてくれ」
 ジョージがいやに真剣な口調になって言った。
「ジェンは昔から知っている。 優しいが芯は強い。 この先どういう人生を歩むにしろ、曲がった道を選ぶわけがない。 わたしたちもやたらに贅沢など押し付けない。 だから今日と明日だけ、ワンダと遊ばせてやってもらえないかな」






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