表紙
明日を抱いて
 115 双子づくし




 少し離れたところで、ゴードン氏と挨拶を交わしていたミッチには、ピーターの言葉は聞き取れなかったらしい。 それでも少年がムッとしているのにすぐ気づき、眉を寄せてこちらを見た。
 とたんにセリナ夫人が明るい声を張り上げた。
「みんなで押しかけてきちゃって、ごめんなさいね。 電話で予約を取ってあるから、まずスタンウッド・ホテルのほうへ荷物を置いて、それから馬車か車を借りましょう」
「そうだね。 あ、君、この荷物を運んでくれたまえ」
 ジョージ・ゴードン氏は旅行慣れした口調で、サンドクォーター駅に一人だけいる荷物運びのジャクソンに、ピーターと二人で降ろしたトランクの群れを示し、ドル札を目立たぬように渡した。
その間に、ピーターは決意を固めた表情でジェンのほうへ足を進めようとしたが、母が腕を取って引き止めた。
「ワンダに任せておきなさい。 積もる話は後でできるわ。 さあ来て」
「でも……」
「来てちょうだい。 トニーが来られなかった分、あなたがしっかりしなくちゃ」
 ほとんど引きずられていきながら、ピーターは抗議した。
「トニーは来られなかったんじゃないよ。 来たくなかったんじゃないか。 トニーはまだ早いと……」
「ピーター」
 父親が厳しく叱った。
「おまえは責任の取れる年か?」
 ジョージが息子を叱るのは珍しい。 それだけ子供たちがしっかりしていて優秀なのだが、久しぶりに怒声を聞いて、ジェンはびっくりした。
 ピーターは母の手を振り払い、姿勢を正して父親を見返した。
「わかった。 もう言いません。 でもトニーと僕は反対だってことは、覚えておいて」


 ワンダは両親の許可をもらって、一人だけ先にジェンたちとマクレディ家へ行くことにした。 御者席に三人座るのは無理なので、娘二人は荷台に後ろ向きに腰掛け、足をぶらぶらさせながら話し込んだ。
 話題はいくらでもあった。 十五歳の初夏に社交界デビューを果たしたワンダに、すぐ『守護神』ができたという話は、ジェンも手紙で読んだが、その彼、いや彼らを写真で見せてもらって、目が真ん丸になった。
「双子?」
「そうなの。 タイラーとキャメロンよ。 ハンサムだと思わない?」
「ええ、すてきだわ。 ちょっとミッチに見せていい?」
「もちろん!」
 そこでジェンは荷台に危なっかしく立ち上がって、振り向いたミッチに写真を渡した。 見たとたん、ミッチは笑い出した。
「なんと、二粒の豆みたいにそっくりだな」
「私もまだ見分けがつかないの」
 ワンダがけろりとした口調で言った。
「彼らはね、私のガードをしてくれる代わり、アリバイ作りに私を利用してるの。 いつも付き添って、パンチやアイスクリームを渡してくれるけど、どっちがやってるのか誰にもわからないでしょ。 その間にもう一人は好きなことしてるってわけ。 途中で入れ替わったりもするのよ」
「うちの双子は、そんなことはできない」
 ミッチはむしろ自慢そうに応じた。
「まるっきり似てないからね」
「弟たちもハンサムよ。 サンドクォーター・ガゼット紙に、今年のかわいい赤ちゃんとして写真が載ったの」
 ジェンは無邪気に自慢した。 子供好きのワンダは、わくわくして身を乗り出した。
「早く会いたいわ〜。 うちにも兄弟がいるけど、年上じゃ抱っこするわけにいかないし」
 そこでジェンは、ピーターの不機嫌を思い出した。
「さっきピーターは何を怒ってたの?」
 ふとワンダの視線が泳いだ。 正直な彼女は、本心を隠すことができない。 特に昔なじみのジェンには必ず見抜かれてしまう。
「怒ってた? いつものことよ。 最近ピーターはむっつりしてて、何かと気に入らないみたいなの」
「あの子には力がある」
 ジェンに写真を返すために腕を伸ばしたミッチが、不意に言った。
「あれは力が有り余っている顔だよ。 兄さんのトニーが事業を継いだら、ピーターは独立するだろうな」






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