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113 急に来た客
不意の誘いが来たのは、もうすぐ八月になるというカンカン照りの午後のことだった。
双子の赤ん坊が六月ごろからほぼ同時にハイハイを始めたため、マクレディ家では床を顔が映るほと磨き、家に入るときにはスリッパに履き替えて、ウォーリーとアンディがどこへ出没してもゴミを拾わないように気を遣っていた。
その日は日陰にいても汗が出る暑さで、冷たい井戸水を使って洗濯するのは、むしろいい気持ちだった。 ジェンが裏庭で、その日三度目に洗濯桶を水で一杯にしてすすいでいると、コニーが呼びに来た。
「電話よ。 セレナから」
セレナとは、ジェンの伯母が長年勤めていた富豪の奥さんで、ジェンにとって第三の母のような存在だ。 ジェンはエプロンで濡れた手を拭き、急いで家に入った。 サンドクォーターは村といっても、住宅がぽつんぽつんと離れているので、電話を設置してからは連絡が電話で来ることが多い。 それでコニーも少しずつ応対に慣れ、ベルが鳴るとすぐ返事をしてくれるようになっていた。 初めは固まってしまい、ミッチがいれば任せっきり、誰もいないときは困って二階に逃げたりしていたのだ。
ジェンが横に置かれた受話器を取ると、すぐセレナの明るい声が伝わってきた。
「あ、かわいいジェン? あのね、私たち今デトロイトにいるの。 これから友達のご招待でシカゴまで行くんだけど、どうしてもあなたに会いたいと思ってね」
ミシガン湖で、シカゴはサンドクォーターの対岸にあたる。 波が出るような巨大な湖だから、向こう岸は見えないが、直線距離だと百キロなかった。
ジェンはもちろん嬉しくて、声を詰まらせた。
「私も会いたいわ、セレナおばさま。 何時の列車? 駅まで迎えに行きます」
「予定では、グランドラピッズに五時二一分に着くんですって。 ホテルは予約してあるから大丈夫よ。 ワンダがあなたに会いたがって今から大騒ぎ」
そこへ待ってましたとばかり、かわいい声が割り込んできた。
「ジェン? あと四時間で会えるわね。 最高!」
「待て待て、わたしにも一言挨拶させてくれ」
今度は渋い父親ジョージの声だ。 相変わらず仲良くにぎやかにやっているらしい。 ジェンは顔をほころばせた。
「ジョージおじさま、お久しぶりです」
「いい声だ! 元気なんだね?」
「はい、もちろん」
「かわいい双子の弟さんにも会うのを楽しみにしてるよ」
「お父さん、代わって!」
「押すんじゃないよ。 向こうに着けばゆっくり話せるんだから。 じゃジェン、五時過ぎにまた会おう」
「はい、楽しみに待ってます!」
電話を置いたジェンは、久しぶりに子供時代に戻って、無邪気に顔を輝かせていた。
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