表紙
明日を抱いて
 112 寂しい夏に




 毎日を忙しく送っているうちに、春学期はあっという間に過ぎ去っていった。 そしてエイプリルには逃れられない試練の時が来た。 父がついにアディロンダックに別荘を買い、美しい娘をまず内輪で、社交界の大物たちに紹介することにしたのだ。
「バーリントンに行くの。 シャンプレーン湖のほとりで、すごくきれいなところなんだって。 でも私にとって、サンドクォーターよりきれいなところなんてないわ」
 最後の授業が終わり、学校から馬車に揺られての帰り道、エイプリルは悲壮な顔で友人たちに打ち明けた。
「お母さんは喜んでるけどね。 こっちより涼しいから」
「いつ戻ってくるの?」
 リリアンが友の手を握り、寂しそうに見上げた。
「九月の初め。 もしかしたら新学期に間に合わないかもしれない。 でも絶対こっちへ帰ってくるって約束してもらったわ。 帰れないなら行かないってがんばったの。 私、転校なんて絶対にしないから!」
 その勢いに引っ張られるように、四人いた少女たちがいっせいに寄り添った。 ジェンもその一人だった。


その年は、前の年に比べて思いのほか寂しい夏休みになった。 エイプリルが六月初めに憂鬱そうな顔で旅立った後、マージまでが父の親戚に招待されて、一緒にカナダへ七月一杯出かけてしまった。 ポリーは八月の末にならないと休みが取れなかったし、美男のエディはなんとおたふく風邪で寝込んだ。
 そしてジョーディも、いつの間にかいなくなった。 養父の家に帰ったと、ジェンは後でジェリーから聞いた。
「あいつもふくれてたよ。 エイプリルみたいに。 出発前に、うちの兄貴と酒飲んじゃってさ、実は僕も一緒に飲んでたんだけど、もうおとなしく養子してるのイヤになってきたから、家出しようかなんて言ってたよ。 兄貴がまじめに止めてた」
 ジェンはうなずきながらも、どうしてジェリーが自分だけに話してくれるのか、よくわからなかった。
「それでさ、二日酔いベロベロで、僕たちが見送りに行ったら、汽車の窓から吐いてた。 おっとごめん、汚い話しちゃって」
「平気よ。 私今、赤ちゃんの世話してるんだから」
 二人は笑いあった。 どちらも買い物で村に出てきていて、偶然会ったのだが、なぜか前にはあまりなかった親しみが芽生えていた。 同じ中学の出身という仲間意識ができてきたのだろうか。
「今年はにぎやかな人がいなくなって、村が静かね。 エディはどうなったって?」
 なぜかジェリーは笑いを噛み殺した。
「一時は顔がパンパンに腫れたらしいよ。 うつるといけないから、見舞いに行けないんだ。 でも、一昨日からグッと元気になったって」
「よかった。 じゃハンサム・エディに戻ったのね」
「サリーがひどく心配してたよ。 まさかエディに惚れてるわけじゃないよね?」
 急に話を振られて、ジェンは目をぱちくりさせた。
「え? ちがうでしょう。 でも、どうかしら……」
 





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