表紙
明日を抱いて
 111 友情と恋と




 イースター休みが終わると、学校は勉強一色になった。 最上級生はプロム(卒業舞踏会)があるのでそわそわしているが、新入生には関係ない。 みんなだいぶ授業に慣れ、学校の課題も少しずつ難しくなってきて、ジェンは洗濯物を取り込みながら化学式を暗記したり、二人の弟にキーツの詩を読んできかせたりして、時間の使い方を工夫した。
 コニーはすでに、年の初めから元気はつらつだった。 赤ん坊が一人だったら、きっとほとんどの家事を自力でこなしていただろう。 マクレディ家の『きれいな赤ちゃんたち』は村で評判になっていて、奥さんたちは差し入れを口実にマクレディ家を訪れて、ウォーリーとアンディの顔を見ようとした。 初めはジェンが中に立って、二人を代わる代わる抱いて紹介したが、今年に入ってからはコニーもだいぶ人なれしてきて、特に顔見知りのおばさん達が来たときには、ちらっと顔を出すようになった。


 人が来たときや、夕食後の団欒のとき、一階に置いた巨大なベビーベッドは大変役に立った。
「トニーとピーターにもう一度お礼を書いたのよ。 あと半年は二人とも寝かせられるぐらい大きくて助かったって。 そしたらトニーがすっかり喜んじゃって、長い線路つきの鉄道模型を買ったからすぐ送るっていうの。 あの子たちが遊べるまで何年かかるかしら」
 それを聞いて、空のパイプをくわえていたミッチが笑い出した。 子供の成長によくないからと、家でタバコを吸うのをあきらめ、外でだけ火をつけることにしたのだった。
「あの二人は甘い父親になるだろうな。 都会の金持ちは薄情者ばかりだと思ったが、あの一家だけは違うようだ」
「薄情な人もいるわね、確かに」
 ワンダやピーターが嫌っている軽薄な若者たちを思い出して、ジェンは眉を曇らせた。
「だから私は社交界に夢を持たないの。 ここのほうがずっといいわ。 がんばったらそれだけ報われるから」
「その意気だ」
 ミッチは満足そうにうなずき、ランプの横でウォーリーのレギンスのつくろいをしていたコニーも笑顔を向けた。
「畑や家畜も、そう思い通りになるもんじゃない。 天気次第じゃ全滅することもある。 だが俺たちは少なくとも、自分の腕で稼いで、人の役にもちょっとは立ってる。 だから胸を張って歩けるのさ」


 その年の気候は、幸いにも順調だった。 赤ん坊はすくすく育ち、ジェンはうまく学校と家庭を両立しながら、友達との付き合いも欠かさず、たまにトレメイン川へ顔を出して、ジョーディとも語り合った。
 ジェンはじっくり自分の気持ちを考えてみて、ジョーディを誰より好きだと悟っていた。 大好きなトニーや、分身のような気がするピーターよりも、ジョーディのそばにいると心が躍った。
 これが私の恋なんだろうか。 それならずいぶん寂しい道だ──たまに、なかなか寝付かれない夜をすごすとき、ジェンはぼんやりそう思った。 夢中で抱き合っていたエイプリルとディックを見てしまった後では、友情は生ぬるい付き合いでしかなかった。
 それでも、全然逢えないよりはましだ。 二人で川岸に座り、声を合わせて民謡を歌っているとき、ジェンは小さな幸せを感じ、こんなのどかな学生生活を送らせてくれるミッチに心の中で感謝した。





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