表紙
明日を抱いて
 107 忙しい日々




 ゴードン夫妻がぼやいている頃、ジェンは恋愛どころではなくなっていた。 赤ん坊が二人いると、こんなに忙しいものなのか!
 ジェンが高校から帰宅したとたんに、コニーは目に見えてホッとする。 ジェンは、晴れた日には外から、雨や雪の降った日はストーブをガンガン焚いた続き部屋から山のような洗濯物を取り込み、午前中がんばり続けたコニーを休ませて、チビたちのどちらかが泣くと、ひっきりなしに交代で母の元へ運んだ。
 その合間にも、することは山ほどあった。 夕食の支度、新たな洗濯物、ますます寒くなるこれからに備えてチビたちに編む靴下やケープ、掃除と片付け……。 ミッチもできることは手伝おうとするのだが、家へ戻ってくるたびに、前と少しも変わらない清潔できちんとした屋内を見て、ただ感心するばかりだった。
「まったく、なんて働き者なんだ! 母親そっくりだな、ジェンは」
「お母さんには叶わないわ。 赤ちゃん二人かかえているのに家だけでなく庭まで掃除して、お昼ご飯とお弁当を作って、二人でこんなかわいい手袋編んでるのよ」
 ジェンが籠から編みかけの青と緑のミトンを出すと、ミッチは一つ摘まみあげて、しげしげと眺めた。
「小さいなあ。 オレもこんなに小さかったのかな」
「誰でもそうよ」
 コニーが双子を両腕に抱えて、夫を迎えに出てきたため、ミッチはすぐ片方を抱き取った。
「やあ、アンディ。 ご機嫌だな」
 アンディはくうくう言って喜び、父親の鼻に手を伸ばした。 まだ生まれて一ヶ月半なのに、アンディはとても活発で、よく笑い、よく泣いた。
 母の腕に気持ちよく抱かれているウォーリーは、陽気な次男とちがって物静かだ。 だからといって弱いわけではない。 たまに弟と母の胸を争うことがあって、そんなとき最後にグッとライバルを押しのけるのは、たいていウォーリーのほうだった。
 どちらも丈夫で、うちは恵まれている、とジェンは思っていた。 同じ時期に生まれたカズンさん家の男の子は、虚弱であまり乳を飲まないそうだ。 マクレディ家と事情が似ていて、結婚して十年ずっと待ち望んでいた初めての子だけに、カズン夫妻と姑のエミリーが夜も寝ずに交代で面倒を見ていると聞いて、コニーは他人事とは思えず心配した。
「弱く生まれても持ち直しますよ、きっと。 カズン一族は粘り強いんで有名だから」
 健康診断で診てもらったとき、フィッツロイ医師はそうコニーに話した。 男嫌いといわれているコニーが、出産以来笑顔を見せてくれるので、医師はマクレディ家に来るのが楽しそうだった。


 家がてんやわんやなせいで、学校生活は半ば夢のように流れていった。 やがて雪が降るようになると、エイプリルは大型の橇〔そり〕を三台用意して、またみんなを助けてくれた。
 この冬はウィンタース氏を説得して、なんとか冬休みもサンドクォーターにいられるようにできたが、来年の夏はいよいよ社交界デビューで東海岸に行くという。 親分肌のエイプリルがいなくなった夏休みなんて想像できず、マージともどもゲインズフォード中学の仲間たちは、全員ゆううつだった。  





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