表紙
明日を抱いて
 105 秘密のまま




 コニーははにかみながらも、アリー・ムーアを二階の寝室まで招きいれ、二人の新しい息子を紹介した。 アリーは目を見張って、普通の赤ん坊とあまり変わらない大きさのアンディとウォーリーを眺めた。
「まあコニー、立派だったわね〜。 続けて二度出産するなんて。 それもこんなに丈夫そうな子たちを」
「今はすごく体が軽くなったわ」
 コニーは微笑みながら答えた。
「嘘みたいに背中の痛みも取れたし」
「健康な証拠よ。 そうそう、デビーのときに使ったおくるみを持ってきたの。 赤ちゃんが二人なら、いくつあってもいいでしょう?」
 コニーは心から感謝した。 村中の古着をもらいたい気分だった。


 その日はあちこちからお祝いが届いた。 ミッチの雇い人のジャックとベニーは早手回しにガラガラを一つずつ買って持ってきたし、夕方には学校帰りのエイプリルとマージが籠を抱えて訪ねてきて、リネンの束をドサッと置いていった。
「お父さんからね、赤ちゃんは多いときで一日二○回もおむつ換えするって聞いたの。 だから取り合えず、地味なお祝いだけど」
 マージの挨拶を聞いて、ジェンは大喜びで二人を家に引っ張り込んだ。 そして感動的だったお産について少し話し、誰よりも疲れ切ってしまったミッチの様子も語った。 二人の友はまじめな顔で聞き入った後、まずマージが静かに言った。
「私は今のところ、あまり結婚したくないんだけど、もし好きな人ができたら、ミッチみたいになってほしいな」
 エイプリルは少し沈黙した後、やや寂しげにつぶやいた。
「私にとっては、結婚は義務なの。 たぶん跡継ぎを産むこともね。 でも、そんなの嫌だなぁ。 愛じゃなくて義務で子育てするなんて」
「あなたらしくないわよ、そんなの」
 ジェンが口を開く前に、マージが憤然と言い返した。
「好きな人ができたら、一緒になるべきよ。 あなたのお父さんって封建領主みたい」
「そのとおり。 だから好きな人がいて、もし駆け落ちしたとしたら、父がどこまでも追いかけてきて、その人をハエみたいに叩きつぶすのを見なきゃならないわけ。 そんなの絶対に嫌」
「最悪ね」
と、マージが唸った。
 ジェンは何も言えなかった。 エイプリルが用心に用心を重ねて、親友のマージにさえ隠している秘密を、ジェンは知っている。 もちろん誰にも話さなかった。 村や学校に伝わっていないのは明らかなので、ジョーディも秘密を守っているにちがいない。 彼は知れば知るほど立派な男の子だった。
 帰り際に、マージが帽子を忘れたのに気づいて、家の中に戻った。 わずかな間、エイプリルはジェンと二人で残された。
 とたんにエイプリルはジェンの手を両手で握りしめ、熱い声でささやいた。
「ありがとう。 誰にもしゃべらないでいてくれたのね」
「当たり前よ。 あなたの秘密で、私のじゃないんだもの」
 そう答えながら、ジェンもエイプリルの手をぎゅっと握り返した。 エイプリルは今まで普段と変わらないそぶりだったが、実はいつ噂が広まるかと非常に心配していたのだと気づきながら。
 マージが戸口を走り出てくるまでの、ほんの十数秒だった。 そのときには、もう二人は握り合った手を離し、ごく普通に学校での授業の話をしていた。





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