表紙
明日を抱いて
 104 祝福されて




 キャスの母であるムーア夫人から、あっという間に双子の情報がもたらされたのだろう。 翌日の朝九時に、デビーの母であるマクナリー夫人が、籠に一杯のミートローフと焼きたてのパン、それに淡いオレンジ色のバラを一束かかえて現れた。
「コニーのお料理を食べてるから、うちのは大したことないでしょうけど、当分はしっかり休まないとね」
「ありがとうございます、アリーおばさん」
 料理は充分間に合っていたが、籠の内容より親切な気持ちに感動して、ジェンはマクナリー夫人を中に招きいれ、コニーが会っても大丈夫かどうか、様子を見に行った。


 コニーは枕やクッションをミッチにうまく積み上げてもらってゆったりと寄りかかり、黒髪の息子に乳をやっていた。 先に生まれたちびさんはウォーレン・マイケル、半時間遅れの茶髪の子はアンドリュー・ジョージと命名されていた。
「ウォーレンはオレをかわいがってくれたじいさんの名前で、マイケルはコニーの父さんの名だ。 こっちは初めから、男が生まれたらつけようと決めてたんだよ。 次の名前はちょっと迷ったが、カーネギーからもらうことにした」
 アンドリュー・カーネギーはスコットランド系の鉄鋼王で、当時のアメリカでもっとも成功した、目先のきく実業家だった。
 昨夜そう説明してもらったとき、ジェンは初めて双子を順番に抱かせてもらい、わくわくしていた。 一緒に母の胎内で成長したとはいえ、二人の赤ん坊はそっくりではなかった。 長男のウォーレンは髪の黒さが母と同じものの、顔立ちはどちらかというとミッチに似ているように感じられた。 そして二男のアンドリューは、やや赤みかがった金髪が父親似で、すっきり通った鼻筋はコニーを思わせた。
「どちらもおとうさんとお母さんに少しずつ似てるわ」
「そうだな」
 ミッチは眼を細めて二人の息子を順番に眺めた。
「まさか双子とは。 ただの一度だって考えたこともなかったよ」
「私は少し考えた」
 コニーが、アンディと呼ぶことに決めた次男の背中を叩き、上手にげっぷをさせながら微笑んだ。
「神様はこんなに待たせたんだもの。 あわてて二人にしたのかなと、想像したことがあったの」
「明日は学校を休むわ」
 ジェンはきっぱりと宣言した。
「キャスに手紙を持っていってもらうことにしたの。 今週末まで三日間は休む。 そうしたら土日も入れて、お母さんが五日間ゆっくり休んでいられるから」
 コニーは心配そうな顔になった。
「後で勉強困ったりしないかしら。 あなたにはゆとりのある学校生活を送ってほしいのよ」
「まだ学期が始まったばかりで、大したことしてないの。 大丈夫よ」
 ジェンは母を安心させた。


 その後、興奮が尾を引いて、ジェンはなかなか寝付くことができなかった。 自分がこの家に引き取られた後で、子供が生まれてよかったと思った。 今度こそコニーの助けになれる。 サリー・ニューウェルみたいに家族全員に頼られる存在になれるのだ。
 ようやく瞼が重くなってきたときに、ジェンが考え付いたのは、本物の母親のような心配事だった。
「そうだ、おむつが足りない。 明日せっせと作らなきゃ」





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