表紙
明日を抱いて
 103 愛する家族




 二人目は一人目より楽に生まれたが、それでも三○分程かかった。 
 部屋の中では、ジェンが本当によくがんばっていた。 といってもあまり動けず、コニーに命綱のように手を掴まれたまま、先に生まれた子の姿を説明し、もう一人もどんなに元気でかわいいだろうかと母を喜ばせ、これからできることは何でも手伝うからと安心させた。
 やがてコニーは無事に大役を終え、後産も難なくおりて、二人目の子供の産湯を使わせ終わったムーア夫人とジェンに洗い立ての寝巻きに着替えさせてもらい、ようやくホッと落ち着いた。 そして二人の子を手渡してもらうと、両腕にしっかり抱きかかえた。
「名前をたくさん考えていて、よかった」
 二人の男の子は早くも泣き止み、母の乳を求めていた。 ジェンは椅子に腰を下ろし、握られて赤くなった手首を無意識にさすりながら、絵のような母子から目を離せずにいた。 新しい弟達はどちらもよく育っていて、体型もよく、健康そのものだとフィッツロイ医師からお墨付きがもらえた。
 そこへドアが開き、大きな姿がとぼとぼと入ってきた。 さっき長男の誕生を知らせたことで、ムーア夫人はすっかり用事をすませた気になり、廊下で立ちんぼうのミッチを忘れてしまっていたのだ。
 ミッチのしょぼついた目が、疲れていても華やいでさくら色にかがやく妻と、すっかり乾いてフワフワと逆立つ茶色と黒の小さな頭にそそがれた。 なかなか声を出せずに数回努力した後、ミッチはようやく呻くように言った。
「心配したよ、コニー」
 そして、コニーが微笑んで手を差し伸べると、ベッド脇にによろめいていって、お下げにまとめたコニーの頭に顔を押し付け、そのままずるずると床に膝をついた。


 医師とムーア夫人を送りに出たのは、ジェン一人だった。 ムーア夫人は目を光らせて面白がっているし、フィッツロイ氏は満足した楽しげな表情だった。
「元気な男の子が二人か。 めでたいことだが、これから食わせていくのが大変だ。 女の子の倍は食べるからな。 つまり四人増えたのと同じことだよ」
 軽口を叩きながら別れを告げた医師を、ジェンは気遣った。
「おとうさんの馬車で来たのに、帰りはどうします? さっきの様子じゃ、おとうさん立てないみたいだし」
 ムーア夫人が笑い出した。
「あの頑丈なミッチさんが、あんなに参ってしまうなんてね」
「大丈夫だよ、ジェン。 帰りにハーパーさんのところへ寄ってみようと思ってるんだ。 最近胃もたれがするとこぼしていたからね」
 ジェンは大門のところで丁重に二人に礼を言って送り出し、それから感謝をこめて夕暮れの空を見上げた。
「ありがとう、神様。 あんな立派な子を二人も授けてくださって。 そしてお母さんが無事で、おとうさんも幸せで。 家族みんなが健康で、心から感謝します」





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