表紙
明日を抱いて
 99 高校へ進学




 晴天の空に現れた小さな黒雲のように、かすかな不安を残して夏祭は終った。 そして間もなく長い夏休みも終わりを告げ、新しい学校生活が始まった。
 中学上位の生徒達が入学したトローブリッジへは、エイプリルのおかげで大型馬車という足があって、楽に通学できた。 ジャッキーたちが行くことになったセントウィリアムズの学生たちは、そんなに運がよくなかったが、それでも高校まで一マイル弱(約一・五キロ)と近いので、せっせと歩いて通うことにした。
 高校に入ると選択科目が増えて、選んだ授業に学生が出席する形になる。 中学でも一部はそうだったが、先生が少ないせいで、同じ教室で勉強することが多かった。 だから専門がちがうと、会うチャンスが減ってしまう。 農業関係の科目を多く取ったジェンは、医者志望で科学系を選んだマージや、経済と商業に興味を持ったエイプリルと顔を合わせる時間が減り、さびしい思いをした。
 それは友達二人も同じだった。 科学・経済・農業と分かれてしまった上、他の女子は文系がほとんどのため、校舎内ではなかなか顔が合わない。 だから行き帰りの馬車がおしゃべりの嵐になった。
 男子たちは、華やかな声が飛び交う車内の騒音を、馬車を使わせてもらっている宿命とあきらめていた。 エディなどはむしろ女子と話すのが楽しいらしく、仲間達に「ボンネットかぶって学校へ行け」などとイヤミを言われていたが、気にしなかった。
 そんな中、ジョーディは目立たず、ジェリーやハウイと一緒にぼそぼそと何か話していた。 九月も半ばを過ぎると、トローブリッジではホームカミング(卒業生との交歓会)が開かれる。 新入生たちはもちろん今年が初めてなので、どんなことをするのかよくわからず、兄が卒業しているジェリーに訊くことが多かった。
「なんか、兄貴たちのときは初日が水曜日で、男子は帽子を裏返しにかぶってくる日、女子はできるだけダサイ襟巻きをしてくる日だったんだと」
「ガキかよ」
 もと隣組のダグがぼやいた。 すると、やはり卒業生が従兄弟にいるエディが身を乗り出してきた。
「でもさ、最終日はかならずダンスパーティーだぜ。 本式のじゃないが、体育館を使ってバンドもつくんだって」
 それを小耳にはさんで、サリーが表情をかげらせた。 高校へ通うだけで、ニューウェル家にはけっこうな負担になっている。 そのうえに、略式ではあれダンスパーティーのドレスなど、買えるはずはなかった。
「新入生でも参加していいのか?」
「もちろんだよ。 略式って言っただろう?」
 ホームカミングは重要な行事だから、気がつくと女子たちもおしゃべりを止め、珍しくジェリーの言葉に耳をすませていた。 ジェリーはなんとなく得意になって、声を大きくして続けた。
「計画を立てるのは先生と上級生だ。 たぶん明日か明後日、今年は何して騒ぐか知らせがあると思うよ」


 他の子たちは楽しみにしているようだった。 しかしジェンは乗りきれなかった。 母の出産が近づいていて、そのほうが心配でたまらなかったからだ。 コニーの腹部は大きくなりすぎていて、マージの父親で医師のフィッツロイ氏も不安を隠せなかった。





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