表紙
明日を抱いて
 98 未来の影が




 いくら親友で信頼しているエイプリルに言われても、ジェンはなかなか乗り気になれなかった。 どうやらこのボサッとしたおばさんは、よく当たると評判がいいらしい。 服装や雰囲気で飾らない分、実力に自信があるのだろう。 だが、それだからこそ怖い感じがした。 おばさんがではなく、伝えられる未来のぼんやりした影が。
 ジェンがしぶしぶ座りなおすのを確認してから、マダム・ジョリーはトランプを切りはじめ、今度は七回もカードを調べた。 ゆっくり一つの山に積み戻した後、マダムは慎重に口を開いた。
「あなたとお相手とは、求めるものがちがう」
 ジェンの不吉な予感が強まった。
「どういうことですか?」
 マダムは小さく溜息をつき、頭を振った。
「伝えるのが難しいわ。 こんなの初めて。 でもあなたと彼はお似合いなの。 離れたらどちらも不幸になる。 だから言ってるのよ」
 ジェンは覚悟を決めた。 マダムの予見では、もう自分の相手は決まっているようだし、深刻な意見の違いが出てくるらしい。 それなら一つだけ、はっきり知りたいことがあった。
「その私の相手になる人とは、もう逢っていますか?」
 マダムは小首をかしげ、逆に問い返した。
「あなたは自分でどう思う?」
 ジェンはためらった。 今、一番近い距離にいるのはジョーディ・ウェブスターだ。 彼が関心を持ってくれているのも、なんとなくわかる。 でもそれは、友達に毛が生えたぐらいの淡い気持ちかもしれないし、二人ともまだ高校に入学してさえいなかった。 真剣な気持ちが芽生えるかどうかは、これからにかかっていた。
「感じのいい人はいますが、愛とか恋とか、そんな感じじゃなくて」
 私のほうだって説明がむずかしい──ジェンは困ったような少し腹立たしい気持ちで、マダムと目を合わせた。 私の未来なんだから、そっとしておいてほしかった。
 するとマダムは、不意にずばりと言った。
「好きになるのを怖がってると、あっさり失ってしまうかもよ」


 けっきょく、エイプリルはテントに入ったときよりずっと明るくなって、二人分の見料を強引に支払って出てきた。 一方ジェンはもやもやした気持ちで、珍しく口をへの字に曲げていた。
「占い師さんに払ったお金、後で返すわね」
「そんな必要ないわ。 私が無理に勧めたんだもの」
 そうさえぎって、エイプリルは雲ひとつない青空を見上げた。 そして、えいっ! という大声を張り上げて思い切り腕を振り、ピンクの日傘を木立めがけて放り込んだ。
「私ね、ずっと不安だった。 このまま行って、彼を不幸にしちゃうんじゃないかって。 それが一番怖かったの。 でも、あきらめるなって言ってもらえた」
「エイプリル!」
 ジェンは思わず親友の腕をつかんだ。
「あなた占い師の言葉で将来を決めるの?」
「いいえ」
 エイプリルの答えはきっぱりしていた。
「本当はもう決めていたわ。 ただ、背中を押してもらいたかっただけ」
「そんな……」
「未来の道はある程度ついているって、昔世話になった乳母さんが言ってた。 ただ、まだ起こっていないことなんだから、違う道をたどって運命を変えることもできるって。 私は変えないことにしたの」
「私はそこまでマダム・ジョリーを信じる気はないわ」
 むきになって、ジェンは叫んだ。
「私は気の合った人たちに囲まれて、平和に暮らしたいの。 うちの両親みたいに」
 エイプリルは切なそうにうなずいた。
「家庭が幸せだと、いいわねえ。 でも、うちにはそんなものはない。 自分で見つけるしかないのよ」





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