表紙
明日を抱いて
 97 予言を聞く




 気がつくと、テントの周りに誰もいなくなっていた。 二人は急いで立ち上がって、連れ立って中に入った。 もう秘密はなくなったため、エイプリルがジェンに、一緒に来て占いを聞いてほしいと頼んだのだ。
 テントの中には、暇そうなおばさんが座っていて、よれよれのトランプで一人遊びをしていた。 そこへ不意に娘達が入ってきたのを見て、あわててカードをかき集めると、急にもったいぶった顔になった。
 なんだか怪しげな占い師だな、と思いつつ、ジェンはエイプリルと並んで椅子に腰掛けた。 二人で診てもらうケースが多いらしく、どちらの椅子もすりきれていた。
「はいお嬢さんたち、何を訊きたいの?」
 その言い方はあまりにも気軽だった。 ジェンはつられて、おばさんの笑顔に笑い返しそうになった。 だがエイプリルはあくまでも真剣で、手提げをぎゅっと握りしめたまま、真顔で尋ねた。
「私と好きな人のこと。 これからどうなりますか?」
 おばさんはすぐにうなずき、端のめくれかかったトランプを手に取った。 彼女は特に占い師らしい格好はしていなかった。 ヴェールはないし、ジプシー風のショールもまとっていない。 ただ、刺繍がついたブラウスはゆったりした仕立てで、東欧風だった。
 おばさんはまずトランプで三つの山を作り、適当なところをめくってはカードの模様を確かめた。 それを三回ではなく五回やった後、目を上げてエイプリルをじっと見つめた。
「あなたは遠くへ行くことになるわ」
 エイプリルのかわいい顎が引き締まった。
「そうですか」
「ええ、そうなの。 あなたの彼も遠くへ行く」
「一緒に?」
 訊き返した声は、下手なフルートのようにかすれていた。
「いいえ」
 おばさんは妙に明るく、きっぱりと否定した。
「別れが見えるわ。 それにあなたには、大事にしてくれる他の人が現れる」
「そんなはずない」
 不意にエイプリルが叫んだ。 めったに興奮しない彼女には珍しいことだった。
「他の人なんか出てくるわけがない!」
「あら、とてもいい人よ。 彼に従いなさい。 きっと幸福が待っているわ」
「そんな……」
 エイプリルは元気を失い、握りしめていた両手をほどいて、だらんと下げた。 顔からみるみる生気が失われていった。
 おばさんのほうは、まるで気の毒そうではなかった。 むしろ陽気な表情で太鼓判を押した。
「たいていの道はまっすぐじゃないの。 曲がったり交差したりする。 あなたの場合はね、金髪のお嬢さん、むしろ幸運よ。 希望を失わないで。 あきらめたら終わりよ」
 エイプリルはゆっくりと手を持ち上げ、花飾りのついた粋な麦藁帽子から滑り落ちた髪の一房を耳にかけた。 青ざめていた頬に赤みが戻ってきた。
「希望はあるんですね?」
「ええ、しっかりと」
 次の瞬間、ジェンがびっくりしたことに、エイプリルはいきなり立ち上がっておばさんの手を握り、大きく振った。
「ありがとう! その言葉が聞きたかったんです。 それで、いくらお払いすれば?」
「ちょっと待って」
 おばさんは、なぜか慌てた。
「こちらのお嬢さんを占いたいの」
 ジェンはぎょっとして中腰になった。
「いえ、私は」
「いいから」
 おばさんは、妙に強引だった。
「見料はいらないから、言わせてよ」
「は?」
「あなたには必要なの」
「でも……」
「さあ、おとなしく座って」
 こんな占い師って聞いたことがない。 ジェンは途方にくれて、エイプリルを見た。 するとエイプリルは彼女を励ました。
「聞いたほうがいいと思う。 マダム・ジョリーは有名な方なのよ。 深い意味で当たるって」





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