表紙
明日を抱いて
 90 将来の夢は




 ともかく、ジェンがジョーディを家へ連れて来て、両親に紹介したことで、ふたりはいわば付き合いを認められた形になった。 コニーは明らかにジョーディが気に入ったし、ミッチもジョーディをよく観察して、しっかりした穏やかな子だと認めたようだった。 ジョーディは川魚をコニーに渡し、塩焼きかバター焼きにすれば淡白な味でおいしいと告げた。
「父とよく釣りをしたんです。 採れたものは天の恵みだから大切に食べろと教えられました」
 コニーは痛ましそうに、淡々と語る少年を眺めた。
「うちの父も釣りが好きだった。 だから魚を料理したこともあるの。 大丈夫よ、どうもありがとう」


 夏の長い一日も、さすがに八時半となると暮れかけてきた。 ジェンがジョーディを送って表門まで出ていくと、遠い木立の向こうに太陽が火の玉のように燃えていた。
 埃っぽい道に長い影を引きながら、二人は向き合い、どちらからともなく微笑みあった。
「今日はわざわざありがとう」
 ジェンが形式張って言うと、ジョーディはにやっと笑って軽くなったびくを振ってみせた。
「おれは何もしてないさ。 ただ釣っただけだもの。 こっちこそありがたかったよ。 あんなうまいケーキは食べたことがない」
 たちまちジェンは目を輝かせた。
「よかった、母のケーキを気に入ってくれて! おいしいでしょう? 私もいろいろ教わってるの」
「君はすごくかわいがられてるんだね。 君なら当然だけど」
 そう言ったジョーディの口調には、あこがれのようなものが感じられた。 ジェンは自分より頭四分の三ほど大きい若者を見上げて、心から言った。
「そうね。 幸せだと思ってるわ」
 すると、ジョーディはふと身をかがめ、ジェンの眼を真剣に覗きこんだ。
「君の夢は何? どんな将来がいい?」
「夢?」
 そう問い返して、初めてジェンは気づいた。 未来の計画を立てたことはある。 だが、夢を持ったことは、これまでなかった。
「高校はがんばって出たいわ。 大学は、奨学金が取れたら行きたい」
 ジョーディは明らかに愕然とした。
「奨学金が取れたら? 取れるにきまってると思うけど、そんなに学費が心配か?」
 ジェンは辛抱強く説明した。
「おとうさんに無理させたくないの。 今年中に家族が増えるし、農業はいつも豊作とはかぎらないでしょう。 ここに引き取られる前は、料理人になろうと思ってたのよ。 ゴードン家みたいなお金持ちの家に勤めれば、貯金もできるし」
「君はサリーより頭いいんじゃないか!」
 珍しくジョーディは興奮して言い返した。
「上の学校へ行くべきだよ! そして広い世界を見て、したいことを何でもするべきなんだ!」
 驚いて、ジェンはジョーディを見つめ返した。 なんで彼が急に熱くなったのか、見当もつかなかった。  





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