表紙
明日を抱いて
 88 意外な結果




 マクレディ家の大きな外門から入ると、玄関の前でジョーディは、日よけに被っていた鳥打帽を脱いでズボンのポケットに押し込んだ。 ジェンはにこにこしながら扉を開け、大きな声で呼びかけた。
「ただいま〜! お客さんを連れてきたわ」
 女友達だと思ったのだろう。 コニーが気軽に台所から廊下に出てきて、大柄なジョーディと目が合ったとたん、はっとして立ちすくんだ。 母が反射的に引っ込んでしまう前に、ジェンは大急ぎで紹介した。
「ジョーディよ、学校友達の」
「はじめまして」
 ジョーディは柔和な微笑を浮かべて、深い声で挨拶した。
 ジェンが胸をなでおろしたことに、客の名前を聞いてコニーは目に見えて落ち着いた。 そして、はにかみながらも淡い笑顔を返した。
「こんにちは。 どうぞ中に入って。 えぇと、今日も暑いわね。 冷えたレモネードはいかが?」
 ジェンはびっくりすると共に、嬉しくなった。 雇いのジャックたちにさえあまり話せない母が、男性にこれほどしっかりした挨拶をするのを、初めて見た。
 お母さん、私のためにがんばってくれてる──なんだか自分までどきどきしてくるようで、ジェンは急いで援軍を呼びに行くことにした。
「おとうさんは畑?」
 コニーはすぐうなずいた。
「午後はレニーととうもろこし畑にいるはずよ」
「呼びに行ってくる! ジョーディ、お母さんのヨーグルトゼリーかジンジャークッキーを食べてて。 すっごくおいしいのよ」
 何か口に入れていれば、社交的なおしゃべりが少なくてすむ。 その間にミッチをできるだけ早く連れ帰ろう。 ジェンは足に羽が生えたように、背丈より大きいトウモロコシが一斉に茂る畑を走った。
 ミッチは牛小屋の横にいて、くつろいだ様子でレニーと話をしていた。 よかった、見回りがちょうど終ったところらしい。 ジェンは義父にとびつくようにして報告した。
「あのね、ジョーディが釣った魚をくれるっていうの。 だからうちまで来てもらったわ。 おとうさんにも挨拶したいって」
 とたんにレニーが口を引き上げて、大きくジェンに片目をつぶってみせた。 嬢ちゃん、男友達連れてきたんだな、という、仲間意識丸出しの身振りだ。 ジェンは顔をくしゃっとさせてから、負けずに大きな笑顔になった。
 ミッチはレニーほど面白がってはいなかった。 ちょっと複雑な表情で、一服していたパイプを近くの柵で叩いて灰を落としてから、ゆっくり動き出した。
「ジョニー・ウェブスターとかいう子だな?」
 大股で歩くミッチの横を飛び跳ねるように歩きながら、ジェンは訂正した。
「ジョーディよ。 大きいけど穏やかで、いい子なの」
「大柄なのか? 肩幅も広い?」
「ええ」
 それがなぜ問題なのか、ジェンは不思議に思った。
「大きい子は嫌い?」
「いや、おれは別に。 ただコニーが……」
 言葉を濁すと、ミッチは一段と歩を速め、とうとうジェンは小走りになった。


 だが、ミッチが何を心配していたにしろ、二人が息せききって台所の出入り口から入ったとたんに、不安は消えた。 ジョーディはきれいに空っぽになったケーキ皿を前に、長い脚を折り曲げて椅子に座り、うつむき加減で語っていた。 そして彼の前にコニーが腰掛けて、子供をなだめるときのように少年の手首を軽く叩いて、顔を覗きこんでいた。





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