表紙
明日を抱いて
 84 思った通り




 ジェンは素早く辺りを見渡して、人がいないのを確かめた。 意地悪なパイク先生に責められてから、男子と話すのに用心深くなってしまった。 どんな場合でも二人きりにならないように注意していたが、今はさいわい人目がないようだ。 まだ相手はジェンに気づいていないらしいので、少し距離を置いて後ろからそっとついていった。


 ジョーディは肩に釣竿をかついでいた。 子供たちがよく持っている、枝で作ったお手製のものではなく、磨かれてつやつやと光る本物の竿だった。
 彼はやがて道を曲がった。 トレメイン川へ行くのだ。 久しぶりにジェンもその角を曲がり、距離を保ったまま歩いていった。
 ひときわ大きなブナの木のところまで来たとき、ジョーディが不意に声を出した。 まっすぐ前を向いたままで。
「なんでついてくるんだ?」
 ジェンは一瞬ひるんだ。 彼の声が少し不機嫌そうに聞こえたからだ。 でも、ばれてしまったからは仕方がない。 足を速めて追いつき、横に並んだ。
「訊きたいことがあるの」
「ふーん」
「釣りの邪魔はしないわ。 すぐ帰るから」
 ジェンは急いで言い、本題に入った。
「デュークと一緒に見張りしてたの、あなた?」
 答えはすぐには返ってこなかった。 そして、ジョーディが口を開いたとき、出てきたのは直接の答えではなく、質問だった。
「デューク・アンバーがしゃべったのか?」
 やっぱり推測は当たっていたらしい。 ジェンは恥ずかしいような、ほっとしたような複雑な気持ちになった。
「ちがう。 ただ、あの人が知らない男子って誰だろうと考えてみただけ」
「ああ」
 ジョーディは納得がいったようだった。
「おれが転校生だから」
「そう」
 それから、ジェンは彼に微笑みかけた。 なんだかそうしないではいられなかった。
「ありがとう」
 するとジョーディのしっかりした頬骨の上に赤みが差した。
「たまたま聞こえたんだ。 今年はきれいな子が一杯いるから見に行こうって騒いでいる奴がいて。 酒飲んでるようだったから、危険だと思って」
「じゃ、覗きは何人もいたのね」
 ジェンは初めて真剣に怖くなった。 男たちはいたずら気分でも、酒が入ると気が大きくなって何をしだすかわからない。
「勇敢ね。 一人で行ったなんて」
 そこでようやくジョーディはジェンと目を合わせ、ちらっとウインクしてみせた。
「棒を持っていったんだ。 喧嘩の仕方は知ってる」
 ジェンの視線が、自動的に彼の腕に下がった。 ジョーディはすらりとしているが、確かに腕には筋肉が付いていて、力が強そうだった。






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