表紙
明日を抱いて
 83 謎の守護者




 我が家が見えてきたとき、ジェンは一瞬、去年の夏に戻ったような気になった。 両親が門の前に立って、心配そうに手をかざしてこちらを見ていたからだ。 電話盗み聞き騒動が、二人の耳にも入ったにちがいない。
 ジェンは不意に、すごく嬉しくなった。 待っていてくれる人がいるのって、なんて幸せなんだろう。 エイプリルたちに別れを告げて、ジェンはあの日のように走り出した。 そして躍るように二人の腕に飛び込み、楽しかったこと、覗きが現れたがデュークが追い払ってくれて安全だったことを話した。
 ミッチはすぐ納得した。
「デューク・アンバーか。 あれはよくできた子だ。 前からあの子だけはおれに明るく挨拶してったし、頼まれ仕事はいつもきちんと最後まで仕上げてた。 だから一度、塀の石組みに困ってたときに教えてやったことがある。 そしたらあいつ、ミッチさんが親切にしてくれたとあちこちで触れまわったらしい。 おかげで知り合いが増えたんだ」
 親切なのはデュークも同じだ。 不良がかった弟達とはずいぶん違う。 ジェンは今度彼に会ったら心を込めて挨拶しようと決めた。


娘達が水着を着ないで泳いでいたことは、表立って問題にならなかった。 代々の村人はみんなそうだったからだ。 だがエイプリルの父は眉をひそめ、来年には絶対に許さないと娘に申し渡した。
「もう子供じゃないんだって何度も言われたわ。 来年からは夏の別荘へ行こうという話が出てるの。 まだ別荘なんて買ってないのよ。 でも遅すぎるぐらいだって。 私を社交界デビューさせるつもりらしいわ」
 嫌でたまらないようにエイプリルがぼやくと、マージが賢者のようにもったいぶって頭を振った。
「しょうがないわよ。 そういう家に生まれちゃったんだもの。 その点、私は気楽だわ。 お父さんの後をついで女医になればいいんだし、それがうまくいけば結婚なんて考える暇もなくなるわ」
 女子の仲良し連中は、そのときカートの店の前に置かれたベンチに寄り合って、涼しい風に吹かれていた。 やがて話題は泳ぎの話になり、もう一人の守護者は誰だったかという謎で、みんなの頭は一杯になった。
「男よね」
「そうらしいわ。 デュークの話し方だと」
「でも、彼がこの村で知らない男の人なんて、いる? おまけに本を読んでいたんでしょう?」
 みんな互いに顔を見合わせた。 読書した時点で、村の男子のほとんどが候補から外れる。
「通りすがりの余所者とか?」
「それなら出てきて挨拶するはずよ。 顔を見られたくなかったってことは、私達の誰かの知り合いなんでしょう」
「わかった!」
 いきなりリリアンが叫んだ。 なぜか頬を赤くしていた。
「きっとアルフよ! いつも音楽の本を見てるもの」
「ああ、そうかもね」
 ぴったりはまる答えだった。 みんな納得したところで、教会の鐘が午後六時を告げた。 エイプリルには門限の時刻だ。 父のトマスが急に厳しくなったので、エイプリルはぶつぶつ言いながらもマージと連れ立って家路につき、小さな集まりは解散になった。


 帰り道、ジェンはずっと考え続けていた。 アルフが見張りだったとは思えない。 彼はもう何年もゲインズフォード中学の用務員をしている。 デュークがアルフを知らないはずはないのだ。
 もやもやしていた気持ちが、道の向こうにある姿を発見したとたんに、晴れわたった。 そうだ、彼なんだ! 彼以外に考えられない!







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