表紙
明日を抱いて
 82 遊び終えて




 少女たちが顔を見合わせ、エイプリルには、しまった! という表情が浮かんだ。
「……十四と十五じゃ、そんなに違うの?」
 そびえ立つように背が高いデュークは、深い声で辛抱強く説明した。
「むしろ、電話の使い方をまちがったというべきだな。 十分後には村中が知ってたんだぜ」
「なんてこと!」
 そう呟くと、めげないエイプリルは額に覆いかぶさった金髪をサッと振り払って、仲間に呼びかけた。
「聞いたわよね。 あと一時間見張ってくれるって。 安心して楽しみましょう!」
「でも」
 ちょっとわざとらしいポリーの震え声がした。
「デュークがいるってことは、まさかアールも?」
「いや、いない。 アールとバロンは隣村へ働きに行ってるから」
 すぐデュークが答えて、ポリーは複雑な表情になった。 夏休みに出稼ぎしている元同級生に同情したのかもしれないし、前にちょっとあこがれていたアールにまた会ってみたかったのかもしれない。 この半年近く、三兄弟のうちサンドクオーターに現れるのは長男のデュークだけで、後の二人はまったく姿を見せなかった。
 デュークは後ろ向きのまま、大きな手を上げてひらひらと振ると、また膝を曲げて茂みの陰に腰を落とした。 それで少女たちは近くの岩陰にそろって移動し、水に入ったり出たりしてしばらく遊んだ。 ボロ着だが頼もしい騎士が見張ってくれているスリルに、みんな興奮ぎみだった。
 やがて大胆になった娘たちの一人が、岩陰から出てボールを拾いに行った。 デュークに見てほしいらしい。 マージがぎゅっと唇を結んで、その子を引っ張り戻してきた。
「ねえミム、デュークを悩ませてどうするのよ」
 ミムと仇名で呼ばれたミモザ・カーペンターは、平気で肩をすくめた。 ミモザは隣村との境にある酒場の子で、姉のエムことエミリーは二年前に流れ者と駆け落ちしていた。
「悩んでほしいわ〜。 デュークって全身が男〜って感じじゃない? 姉ちゃんの相手のスパイキーよりずっといい」
 ませている。 マージは溜息をつき、勢いよく両手に力を入れて、ミムを水面下に沈めてしまった。 魚のように泳ぎがうまいミムは、すぐ浮き上がってきて、笑いながらマージを追いかけはじめた。
「やったわねっ、あんたも沈めてやる!」
 ところがマージは学年女子で一番泳ぎが速い。 二人は笑いながらしぶきを上げて鬼ごっこを始め、周りは面白がってどちらかを応援した。


 騒いでいると、一時間などあっという間に過ぎた。 茂みのほうから口笛が響いてきて、少女たちは我に返った。
「もう時間だ。 帰ろう!」
 今ではデュークが仕切っていた。 年上だし、守ってくれたのだから当然かもしれないが、ジェンはエイプリルの反応が気になって、思わず振り返った。
 エイプリルは、もうバスケットのところにたどりついていた。 うつむき加減で表情はわからない。 でも気分を悪くしているようすはなかった。
 みんなは手早く服を着て、帽子とバスケットを持ち、髪は垂らしたまま家路に着いた。 まだ日は高い。 歩いている間に乾いてしまうだろう。
 やがてデュークが道に出てきて、少女たちの後方についた。 すぐそばには来ず、少し離れてのんびりと歩いていた。 謎の『もう一人の番人』は、最後まで出てこなかった。
 間もなくミムが遅れだして、やがてデュークと並んで話しかけはじめた。 するとリリアンまで戻っていって二人に加わり、そのうち十二人のうち九人がデュークの周りに群がった。
 行かなかったのは、ジェンとエイプリルとマージだけだった。 三人はまるで申し合わせたように前に残り、振り向きもせず静かに歩いた。 ジェンは単にデュークをよく知らないから行かなかっただけだが、残りの二人はどことなく、背後を意識している感じがした。





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