表紙
明日を抱いて
 78 打ち明け話




 にぎやかな芸能大会のような記念会は、こうして大成功のうちに幕を閉じた。 在校生も見に来ていたので、彼らが大人になって子供が出来て何十年も語り継がれるほどの盛り上がりだった。
 終了後、すぐに生徒達は二組の教室の前にある廊下に集まり、生徒会のサリーとダグ、それに両組のへだてなく後押しして成功に導いたエイプリルとマージたちに大歓声が贈られた。
 ジェンも歓呼に迎えられた。 もうジェンが余所者だなどと思う子は一人もいない。 やがて静かに加わったジョーディには、まだ男子だけが歓迎の口笛でにぎやかに迎えたが、女子でひそかに、このチャンスで彼に抱きついてみたいと夢見たのは一人や二人ではなかった。
「おまえ、さりげなく凄いなあ。 歌えるなんて知らなかったぞ」
 ジェリーが肩をどついて冷やかすと、ジョーディはわずかに口元をほころばせて答えた。
「伯父さんが船乗りで、歌がうまかったんだ。 よく一緒に歌った」
 ジョーディが家族の話をするのを聞いたのは、これが初めてだ。 たまたま傍にいたジェンはさりげない顔をしていたが、実は好奇心にかられた。 話し相手のジェリーも初めてだったようで、目を丸くして訊きかえしていた。
「へえ、伯父さんと仲良かったのか」
「親が留守のとき、よく伯父に預けられたんだ。 どこにでも連れていってくれて、すごくいい人だった。 人使いは荒かったけどな」
「ふうん、その人がここへ入れてくれたのか?」
 一瞬、ジョーディのきりっとした顔に苦悩の色がひらめいた。
「いや。 伯父さんも船の事故で死んじまった。 家と名前をくれたのは、別の人さ」
 家と名前をくれた、という言い方は、どこかぎこちなかった。 
 二人が話し合っている間も、集まった生徒達ははしゃいで、肩を組んで何度も歓声を上げたり、ハンプティやハンブル先生に話しかけたりしていた。 やがて待ちかねた父母が廊下の曲がり角から覗いたので、ハンプティは解散を指示し、生徒達は仲間同士連れ立って帰りはじめた。 親に呼ばれて一緒に帰る子も多かった。
 ミッチとコニーが廊下の向こうで嬉しそうに手を振ったので、ジェンは小走りになった。 その前に、後ろの会話が少しだけ耳に入った。
「新しい親は、こっちにいるのか?」
「いや、町に住んでる」
「えー? じゃ、なんでお前、町の学校に入らなかったんだ?」
 二人の少年の声は遠ざかり、すぐに聞こえなくなった。 ジェンは少し残念に思った。 どうしてジョーディが養い親から離れて、わざわざ小さな農村地域の中学へ編入してきたのか、理由が知りたかった。





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