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明日を抱いて
 76 高校へ合格




 そして四月がやわらかな春の衣をまとって訪れた。 昼の気温が十度を越えるようになり、雪が雨に変わって、小さな若草色の芽吹きがあちこちに姿を見せ始めた。
 リンゴやサクラのつぼみがほころび始めた四月下旬、学校は興奮に包まれていた。 進学希望の生徒たちに、志望高校から通知が届き始めたのだ。 中学校が送った成績表と指導教師の講評、それに高校から送られてきた題にもとづいた研究発表の提出で、合否が決まる。
 めでたいことに、ジェンのクラスでは全員が志望校から合格通知が届いた。 一人で三教科を受け持つハンプティことヴァン・ビューゼン先生の力だろうと、ジェンは思った。 彼は冷静で感情的にならず、生徒と必要以上に仲良くなることもないが、公平で合理的で、しかも教師という仕事に情熱を持って取り組んでいた。
 隣のクラスでは、それほど運がよくなかった。 三人が断られたという噂で、そのうち二人は大慌てですべり止めの学校を探しはじめた。
 残りの一人が、ジェンたちの仲間のポリー・エイキンだった。 もともと勉強嫌いで、かわいいものとロマンティックな童話が好きなポリーは、受験失敗をむしろチャンスと捕らえていた。
「町の洋裁店に見習いで入ろうと思うの。 おばさんの一人がインディアナポリスでドレスショップをやっていて、誘われたんだ。 ほら、私って前から人形の着物作るの得意だったでしょう? 手先が器用だからきっとうまくやれるって、メアリーおばさんは言うのよ」
 ポリーの名前は、成功者のメアリー伯母からもらったものだった。 だから弟子に入ってもきっとかわいがってくれるだろう。 しかし、これからも同じ高校に通えると思っていた親友のリリアンは、ひどく悲しんだ。
「ポリーだけが頼りだったのに。 エイプリルもマージもジェンも、みんなトローブリッジ高校に行っちゃうのよ。 女子でセントウィリアムに行くの、私だけよ!」
 嘆き悲しむリリアンに、エイプリルたちは同情したが、こればかりはどうにもならなかった。 マージはともかくエイプリルは、大企業家の父がそろそろお嬢様学校へ入って社交界入りの準備をしたらと言うのを必死で説得して、地元の高校に入らせてもらったのだ。 トローブリッジが程度の高い名門だから、許してもらえたにすぎない。 ごく普通のセントウィリアムなら、問題にされなかっただろう。
「インディアナポリスまで行っちゃうなんて。 ミシガンでさえないなんて! オハイオ州じゃないの」
「すぐ隣よ。 それに休みには村へ帰ってくるわ」
 進学組は夏をのびのび故郷で過ごすが、就職する子たちは卒業式を終えるとすぐ出発する者が多い。 リリアンは間もなく来るポリーとの別れを思って、しょんぼりしていた。 その姿を見て、ジェンはワンダを思い出した。 あんなにジェンとの別れを悲しんだワンダ。 ジェンもしばらく寂しくてしかたがなかった。 二人は今でも毎週手紙を書きあっていて、お互いの家族の状況を手に取るようによく知っていた。


 男子たちがどういう進路を取ったか、まもなく情報が集まってきた。 ハンサム・エディと、マージの隣人のハウイ・デントンはトローブリッジに合格した。 ジェリーもぎりぎりで入ったが、ジャッキーは初めからセントウィリアムを選んだ。 そしてジョーディ・ウェブスターは、抜群の成績でトローブリッシへの進学を決めたという話だった。
 トローブリッジ高校は、グランドラピッズの郊外にある。 そう離れてはいないが、中学とちがって歩いて通学はできない。 これまでの卒業生はハイマンズウェル駅まで行って汽車に乗るか、馬車で通学する子が多かった。 鉄道は決して安くなく、ふつうの農家では運賃を払いきれないため、通学費用のためバイトをするのが普通だった。
 しかし今年の生徒達には、救世主エイプリルがいた。 彼女は父親にかけあって大型馬車を用意してもらい、御者つきでトローブリッジへ新入生全員を送り迎えする、いわば私設のスクールバス制度を作り上げた。





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