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73 怒りと復讐
その日帰宅したジェンは、学校で起きた出来事を一言も親達に話さなかった。 二人を余計なことで不愉快にしたくなかったし、自分も思い出すのが嫌だった。 しかし彼女は忘れていた。 狭い村の情報がどんなに早く伝わるかを。
夕方、真冬だから暇なミッチが、友人でほぼ引退生活を送っているビグスのもとへ、ちょっと顔見せに行くことにした。
「一週間ほど会ってないからな。 晩飯には帰ってくるよ」
「かぼちゃのプディングがあるの。 持っていってあげる?」
「ああ、きっと喜ぶよ」
ミッチはナプキン包みをコートのポケットにねじこんで、上機嫌で出かけていった。
ところが、夜の八時半になっても、ミッチは戻ってこなかった。 時間にはきちんとしていて約束を守る夫が姿を見せないので、コニーは遅刻を怒るよりも、何かあったのではないかと心配しはじめた。
そこへがやがやとにぎやかな声が近づいてきたので、ジェンは玄関に急ぎ、コニーは食事室の窓に飛んでいってカーテン越しに暗い外を覗いた。 やってきたのはどうやら三人の男のようで、そのうちの一人は明らかにミッチだったが、奇妙なことに全員で肩を組んでいるように見えた。
「おちつけ。 あんだけやったら、あいつも目が覚めただろう」
「もうちょっとで永久に目を覚まさないところだったがな」
渋い声と明るい声には聞き覚えがあった。 ビグスと雑貨屋のカートだ。 ジェンはすぐ玄関を開け、外は晴天なのになぜか雪だらけの三人を中に入れた。
ジェンに目をやると、カートは帽子を取り、困ったように言った。
「あんた何も話してなかったのかね? てっきり知ってるもんと思ってさ、パイクのとんでもない勘違いのことをビグスと話し合ってたんだよ。 そしたらミッチが逆上して」
「おまけにパイクのバカが、まだ下宿にぐずぐずしてたんだ。 とっとと逃げりゃいいのに荷造りが遅くてなあ」
食事室から顔を覗かせたコニーが、珍しく声を出した。
「何のこと?」
今度はビグスも帽子を取り、二人の肩に寄りかかったミッチを傍の椅子に座らせた。
「こんばんは、コニー。 ちょっと喧嘩があってな」
コニーは息を呑み、ミッチの傍に飛んでいって、彼が痛そうに頭に当てている手をはがした。
「まあ、血が出てる!」
「ああ、下宿のおかみがな、フライパンでごつんと殴ったんだ。 パイクが殺されそうだと思ったんだろう」
「おれたちが止めてたのに、まったく。 ドティときたら手が早くてさ」
コニーには何が何だかさっぱり意味がわからず、途方にくれたままジェンに小声で頼んだ。
「水差しと救急箱を持ってきて」
ジェンはこんなに辛い思いをしたことはなかった。 自分が言わなかったせいで、ミッチがこんな目に遭うなんて! 生まれてはじめてのぼせてしまい、居間へ走りこんだものの、救急箱がどこに置いてあるかなかなか思い出せなかった。
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