表紙
明日を抱いて
 69 共感できて




 ジェンは自分のジョーディに対する気持ちを、あまり深く考えなかった。 好きな人間が一杯いる女子らしい割り切り方だ。 みんな友達だから等距離で付き合っていこうという思いと、まだ中学生なのに誰かが好きとか愛してるとか早すぎるという照れがあった。
 もっとも、他の女の子に言わせれば、ジェンは晩生〔おくて〕すぎるのだそうだ。
「十四になってまだ憧れるだけなんて、昔の子みたい。 もう二十世紀だっていうのに」
 昨日の放課後、リリアンにそう言われて、ジェンはきょとんとなった。
「憧れって?」
 とたんにリリアンが肘で突いてきた。
「やーだ、とぼけて。 ジョーディ・ウェブスターは前にジェンが好きだった男の子にそっくりなんでしょ?」
 ジェンは天を仰ぎたくなった。 なんでこんな不都合な偶然が重なるのか。
「あのね、顔が似てたからって同じように好きになるとは限らないの」
「でも好きなタイプってあんまり変わらないってよ」
 リリアンも負けていなかった。
「なんか不自然なのよね、あなた達。 ジェンは男子とも普通に話すのに、ジョーディとは口きかないじゃない?」
 ジェンは哲学者のように首を振ってみせた。
「それは私のせいじゃないわ。 ジョーディ・ウェブスターは、もともと女子とはほとんど話さないもの」
「じゃ、なぜあなたの名前を呼んだの? ねえなぜ? 私が行けなかったエイプリルのパーティーで、みんなびっくりしたって聞いたわ」
「それは、たまたま目が合ったからよ」
 ジェンはとっさにそう答えた。 でも思い出してみると、そんな記憶はない。 ジェンとしても少し不思議に感じてはいた。
 今、川岸をたどりながら、ジェンはそのことを考え、彼女なりの結論を出した。 こうやって毎週のように会っているから、仲間意識で名前が出てしまったにちがいない。 きっとそうだ。
 そのとき、さくさくと雪を踏む音が聞こえ、茂みの奥からジョーディが姿を現した。 ドンゴロス(粗い目の麻)の袋を二つ抱えている。 よく見ると、麻袋の底に小さな穴があいていて、歩くにつれて中身の穀物を少しずつ落とす仕組みになっていた。
「餌やり?」
「そうだよ」
 ジョーディはくったくなく微笑んだ。 ジェンは急いで彼に近寄り、袋を一つ受け持たせてもらった。
「うわ、半分になってるのに結構重い」
「だろ? 一箇所にまくと鳥の集まり場所になって、テンやキツネが待ち伏せするから、こうやって広く散らばしといたほうがいいんだ」
「動物に詳しいわねえ」
 ジェンは感心した。 アンソニーといいジョーディといい、生き物に優しい少年たちと知り合いなのが、とても誇らしかった。





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