表紙
明日を抱いて
 68 木曜日には




 クリスマス休暇が終わると、学校ではすぐ会長選挙が行なわれた。 前の会長が不意に西部へ行くことになり、副会長のほうは体調不良で休学するという緊急事態で、時期外れの投票となったのだが、男子と女子の選挙戦ということで、思わぬ盛り上がりを見せた選挙戦だった。
 前評判は接戦だった。 そして予想通り、開票が終わりに近づいても、ほぼ同数でずっと並んでいた。 こんなはずは、とダグ・マッキンタイアの親衛隊は青ざめ、サリー・ニューウェルの陣営はわくわくしながら見守った。
 結果は劇的にも、最後の2票で決まった。 どちらもサリーの名が書いてあったのだ。
 ジェンの組の女子は全員飛び上がって喜び、互いに抱きつきあった。 ダグは夕立雲のような顔をしていたが、それでも男らしく立ち上がってサリーに握手を求めた。
 サリーは珍しく、泣きそうになっていた。 これで高校の奨学金はほぼ決まりだろう。 親兄弟に負担をかけずに進学できる。 サリーは力になってくれた女子同級生達みんなに抱きついて、ありがとうと言いつづけた。


 副会長となったダグは一切恨み言を口にしなかったので、前より人気が出た。 スカしたやつだと思ってたが意外に根性あるじゃないか、と、『ハンプティ組』といわれているジェンのクラスの男子にも認められ、なんとなく対立関係だった二つの組が仲良くなるという好結果が生まれた。 どうせ一緒にいられるのもあと半年だけだ。 その後は進学と家の仕事の手伝いに分かれて、どちらも忙しくなる。 中には町へ働きに出ることが決まっている子もいた。 子供時代を楽しむのは、今が最後かもしれなかった。
 自然と両組の女子をたばねる存在になったのは、エイプリルだった。 彼女がほんわか色っぽいクリスマスパーティーを開いたのが密かな噂になっていて、ハンブル組の男子たちも卒業パーティーに招いてもらおうと考え、エイプリルと仲良くしようとする子が増えた。
 ジェンにとって、学校は実に楽しい場になった。 その上、木曜の午後には別の楽しみが待っている。 木曜日にはエイプリルがリリアンと共に、アルフのところへピアノを習いに行き始めて、帰りが一緒でなくなった。 エイプリルと帰ると仲間がいっぱいついてきて、マクレディ家のすぐそばまで来るので一人になれないが、彼女がいないときはマージとポリーだけなので、すぐ分かれることになる。 その後は単独行動を取れる貴重な日だった。
 木曜日、ジェンが行くのはトレメイン川だった。 ジョーディは必ず川岸にいて、ジェンが歩いていると、どこかからひょっこり現れて声をかけてきた。
 特に何を話すわけではなかった。 ただ少し離れてぶらぶら歩き、たまにカワウソやキツネやウサギなど、ジョーディがかわいがっている小動物を話題にする。 生き物について詳しいジョーディに、ジェンのほうが子犬のゴールディの育て方を訊くこともあった。
 彼はジェンが最近来たのを知っているはずだが、過去について一言も尋ねなかった。 それはジェンも同じだった。 ジョーディは不意に転校してくるまでどこでどう暮らしていたのか、仲良しのジェリーやジャッキーにも語らないという。 だからジェンは注意して、彼の私生活について興味を持たないようにしていた。  





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