表紙
明日を抱いて
67 良い聖誕日




 翌日のクリスマス当日は、マクレディ一家にとって楽しい中にも厳粛な一日になった。 朝の礼拝に、初めてミッチが一緒に出たのだ。 コニーは大喜びで、外ではめったに見せない満面の笑顔を振りまいていた。
 三人が隣人のフィンレー夫妻と一塊になって雪の道を歩いていくと、同じように教会へ向かう人々があっけにとられて見送った。 一家で一番人付き合いが多いのはジェンで、彼女に挨拶していく村人が多く、それをきっかけにコニーやミッチにも声がかけられた。
「クリスマスおめでとう」
 コニーは小声で挨拶したが、ミッチは初めのうち、帽子に手をかけるだけだった。 だが教会が近づくと、次第に声を出すようになり、やがて人々にとけこんで、ほとんど違和感なく教会堂の門をくぐった。


 静かな農村地帯で、教会は今でも地域の中心だった。 信仰心が深いかどうかは別にして、ミサに出ればたいていの人々と知り合えるし、お互いの無事もわかる。 だからミッチが出席したことは、人々の最後の不信感をやわらげるのに役立った。 彼といてジェンは幸福そうだし、コニーはますます美しくなっている。 彼は見かけによらず良いやつで、これからは村のしきたりも守るつもりらしい。 そうわかると、帰り道ではさらに挨拶する人間が増え、軽い世間話を交わす相手さえ現れた。
 コニーは有頂天だった。 家に戻り、みんな着替えを済ませて居間に集まると、頬を上気させて思いも寄らないことを言い出した。
「今日は最高だったわ。 お説教も明るくて未来に希望の持てる内容だったし。 それに何より、みんなで行けたし」
 そこでコニーはミッチに寄りかかり、ジェンを抱きよせた。
「あなたたち二人の望みは知っているのよ。 でも掃除好きな私が嫌がると思っているんでしょう? そんなことはないわ。 私も犬は好きだもの」
 ミッチは息を呑み、ジェンは母に飛びついた。
「ほんと? ねえ、ほんとに飼っていいの?」
 コニーは笑いながら、喜ぶ二人に釘を刺した。
「あなたたちがちゃんと面倒を見てくれるならね}
「もちろんよ!」
と、ジェンは叫んだ。 それにしても母はいつ知ったのだろう。 川向こうのジャンセンさんの家にこの秋、むく犬の子供が三匹生まれ、ジェンが学校帰りにいつも見に行っていたことを。 そして、その話を聞いたミッチがついてきて、特に脚の丈夫なオスの子犬を気に入り、ジャックに預けて飼ってもらおうとしていたことを。
「うーん、最高のクリスマスプレゼントだよ、大事なきみ」
 口が重く、愛情深い呼びかけなど言えなかったミッチが、初めてジェンの前で妻をハニーと呼んだ。 コニーは顔を真っ赤にし、ジェンは嬉しくなってにやついてしまった。


 さっそくミッチが迎えに行って連れて来た子犬は、金色と茶色の毛が入り混じっていたため、ゴールディと名づけられた。 最初は少しおどおどしていたものの、すぐなついて居間をはしゃぎまわり、一時間もすると疲れて、コニーが用意した大きな籠の中に自分から入ると、ぐっすり寝てしまった。
「今夜は夜鳴きするでしょうね。 親やきょうだいと離れて寝るのは初めてだから」
「そう思って、ジャンセンの奥さんから毛布をもらってきたんだ。 こいつらが使っていたやつを。 さっき籠に入れといたから、たぶん静かに寝てくれるだろう」
 感心したジェンに、コニーが目くばせした。 うちの人はよく気がつくでしょう? という自慢の目つきだった。
 夜にはご馳走が待っていた。 ゴールディはテーブルをぐるくる回って、誰かれなしにおこぼれをねだった。
 三人と一匹がすっかり腹いっぱいになったところで、遅くなったプレゼント交換のときが来た。 普通はクリスマスの朝に開くのだが、今朝は教会に行くのでミッチが神経質になっていて、夜に伸ばしたのだった。
 ジェンには母から手縫いの見事なブラウスが、義父から表紙に模様の入った高そうな日記帳が贈られた。 その他にも二人は、様々な色のリボンを一ダースと、今女子の間で流行っている紙ばさみまで買ってくれていた。
 ジェンからは、ミッチに任されている玉子を村で売ったお金で、ミッチには新しいズボンつり、コニーにはモヘアのふわふわの毛糸二束がプレゼントされた。 モヘアは小間物屋の女主人が行商人から仕入れたもので、値段が高すぎてずっと売れ残っていたものを安く譲ってくれたのだった。






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