表紙
明日を抱いて
 63 幸せな月夜




 やがて玄関ホールの呼び鈴が何度も鳴った。 招待された生徒達の家族や親戚が迎えに来たのだ。 男子でも、ジェリーには兄のサムが、エディは近所に住む叔父のマイクがついでだからと言って立ち寄ったが、ジョーディは相変わらず一人だった。 木の股から生まれたんじゃないかと噂されるほど、ジョーディの家族について誰も知らなかった。
 だが、周りが気にするほど本人は意識していないようだった。
「おれのタイガーは、エイプリルがここの馬屋で預かってくれたから、助かったよ」
 馬なのに虎という名前のついた栗毛の若馬は、とてもジョーディになついていて、学校で世話を引き受けているアルフが感心するほど、よく手入れされていた。
 その言葉を聞いて、ジェリーの横にいたサムが気さくに話しかけた。
「おれ荷馬車で来たんだ。 一緒に乗ってかないか? タイガーは後ろにつないどきゃいい」
 ジョーディはちょっとためらったが、ジェリーも熱心に勧めたので、その気になった。
「そうだな、クレセントの辻まで行きますか?」
「ああ、行くよ」
「乗せてもらうといい。 夜の乗馬は危険だからな」
 アルフも横で口を添えた。 ジョーディの友達のジャッキーは半月ほど前、母親が産気づいて、馬を飛ばして産婆のところへ駆けつけた帰り、凍った夜道ですべって落馬し、足を折ってしばらく学校を休んでいた。
「ジャッキーもついてないよな。 行きは暴走しても何ともなかったのに、帰り道ですってんころりんだもんな」
「馬が足を折ったんじゃなくてよかったよ」
 動物好きなジョーディは、ジャッキーが聞いたら湯気を立てて怒りそうなことをさらりと言って、ジェリー兄弟と仲良く出ていった。
 ジェンにはもちろん、ミッチが来ていた。 彼がマイクと談笑しているのを見て、ジェンは嬉しかった。 もうミッチを敬遠する人間は、村にはほとんどいない。 十五年前に流れ者の季節労働者として村に来た無愛想な若者は、今ようやく人々に受け入れられ、解け込んでいた。
 ジェンが青いコートとコニーが編んだすてきなマフラーを着て現れると、ミッチは笑顔になって手を振った。
「ジェン! こっちだ!」
 ジェンはすぐ義父に駆け寄った。 ミッチも愛馬ネロをつけた荷馬車で来ていたので、馬を凍えさせては大変と、ジェンはエイプリルと抱き合って感謝の挨拶をするとすぐ、ミッチとウィンターズ邸を後にした。
 月明かりの帰り道、興奮さめやらぬジェンは、家に戻るのが待ちきれず、ミッチに楽しかったことの数々を語り始めた。 ミッチはたまに相槌を打つだけだったが、楽しんでいるのは表情でわかった。
「それでね、私に呼ばれてジェリーはびっくりして、カウチからすべり落ちちゃったの」
笑いながら、ミッチは低音で尋ねた。
「ジェリーって?」
「ああ、まだ話したことなかった? ジェリー・トーマス。 グレン・トーマスさんの下の子。 髪が白いぐらいの金髪でね」
 ミッチはすぐ納得した。
「あの一家はみんな色が薄い。 グレンなんか目が透き通って見える」
「ほんとにそうね。 どこを見てるかよくわからないほど」
 すでにジェンは村人をすべて知っていて、大半の人と仲良しだった。





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