表紙
明日を抱いて
 62 宴の最後に




 その後は、ちょっと早めの夕食タイムになり、みんなは広々した食堂に案内された。 ここには初めて入る子たちが多く、最初遠慮がちだったが、出てきた料理が牛肉と野菜のシチューに鶏の腿焼き、丸いコロッケとハンバーグ、それにふかふかの白パンからカチカチのフランスパンまでパンの大盛りが四種類自由に選べるという大らかな料理だったため、すぐくつろいだ。
 おかわりもできて、たいていの男の子は女子の倍ぐらい食べていた。 見かけは庶民的な献立でも、味は豊かでおいしい。 高価な材料で一流のコックが作ったものは、やはり一味違った。


 食べ終わると、一同はまた大広間に戻って、ダンスパーティーを開いた。 といっても社交ダンスではなく、アルフが弾きまくる民謡にあわせてのフォークダンスだ。 踊りたくない者は手拍子で参加し、レモネードを飲みながら盛り上がった。
 ジェンはもちろん踊りに加わった。 『藁の上の七面鳥』で隣と手をつなぎ合い、寄せては返していると、巡り巡ってジョーディが横に来た。 ジェンはスマートな身のこなしでステップを踏んでいる少年に、明るく笑いかけた。
「さっきの面白かったわね」
 ジョーディも顔をほころばせ、エクボがはっきり姿を見せた。
「君がジェリーを指名するとは思わなかったな」
「顔を上げたら目が合っちゃったの。 リリーを呼ぶつもりだったのに、あの子来ないんだもの。 ジェリーに悪いことしちゃった」
「気にすることないよ。 あいつ面白がってたから。 あれでけっこう目だちたがりなんだ」
 そこでまた横が入れ変わり、話は途切れた。 二人が目を見交わして離れるのを見たエディが、ジェンの手を取りながら不思議そうに尋ねた。
「あれ、いつジョーディと友達になった? あいつ男子としか遊ばないのに」
 そういえば、とジェンは初めて気づいた。 学校でジョーディが女子と話しているところを見たことがない。 別に無愛想なわけではないが、自分からは決して話しかけなかった。
 ジョーディと学校の外で親しくなったことを、どこまで話せばいいのか、ジェンは迷った。 高校生になれば、人目につきやすいひなびた村でも少しずつカップルが生まれるが、中学校ではまだ男子は、女子と一緒にいるだけでからかわれる年頃だ。
「私、誰でも話しかけちゃうから」
 そう軽く言うと、あまり深く考えない性質のエディはなんとなく納得した。
「ふーん、なんか声をかけづらいってデビーが言ってたけどな。 ジェンなら平気か」
 そのとき、ぐるっと回ってきたルークがエディを腰で押し出した。
「じゃま」
 そしてルークもジェンに笑いかけた。 気さくに語り合えるので、ジェンは女子だけでなく男子にも人気があった。 ピーターと揺りかごから一緒に育ったジェンは、男の子と打ち解けるツボを心得ていた。


 七時になると、ロスという名前のウィンタース家の執事とキャヴァナーという運転手が、大きな盆に包みをたくさん載せて運び込んできた。 どれも真っ白な小箱で見分けがつかない。 エイプリルは手を叩いて、ダンスの後あちこちで談笑している皆の注意を引いた。
「それでは、ちょっと早めだけどクリスマスプレゼントです。 今日は来てくれてありがとう」
 エイプリルがにこやかに配りはじめたので、ジェンとマージも手伝って、どんどん渡していった。 箱を開けて中身を見た子は、うれしそうにするのとぎょっとなるのと、だいたい半々だった。
 やがて遠慮のないキャス・ムーアが、だらっと手から男物のベルトを下げて、凄みのある声を出した。
「ねえエイプリル、私にこれを締めて学校へ行けというの?」
 そのベルトは、この冬に男子の間で爆発的に流行っている品で、値段のわりにかっこよく、男ならもらって確実に喜びそうだった。
 キャスの苦情に勇気が出たらしく、エディもちょっと遠慮がちに声を出した。
「僕のもすてきなリボンとカードだけど、女のきょうだいいないしな〜」
 エイプリルはそこで両手を挙げて苦情を制し、あっさりと答えた。
「あいにくだったわねえ。 それじゃ、合わない人同士で話し合って交換してくれる?」
 複雑な空気が流れ、美しいベルベットのリボンをもらった男子と、ごついベルトを持った女子とが、きょろきょろ周囲を見回しはじめた。
 ジョーディとジェリーは運よくベルトに当たり、くつろいでまた箱にしまいこんでいた。 ジェンも栗色のつやつやしたリボンと花模様のカードをもらえたので、困った顔の外れ組を余裕で眺め、これが最後のゲームだったのかと気づいた。





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