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60 聖夜の季節
幸いにも、コニーは気は弱いが体は丈夫だった。 それに、妊娠したことが少しずつ村に広まると、これまであまりにおとなしいコニーに遠慮してあまり話しかけてこなかった奥さんたちが、体にいい食べ物や、いい産婆さん情報などを届けに、マクレディ家の門をくぐるようになった。
好奇心で訪れる人もいたが、たいていは親切で気遣って来てくれた。 コニーは最初あたふたしたものの、奥さんたちが皆ジェンのことを知っていて、明るくていい子だと口をそろえて言うので嬉しくなり、やがてこじんまりした応接間でもてなすのを楽しみにするようになった。
ジェンも、おばさんたちと付き合うコツを教えてくれた。
「初め笑顔で挨拶して、すぐお茶と食べ物を出して、後は話を聞きながらときどきうなずいていれば大丈夫。 みんな話したいだけだから。 静かに聴いてくれる人がいると喜ぶの」
それからちょっと心配そうに付け加えた。
「疲れたら、くらっと倒れてみせてね。 気分が悪いといえばおとなしく帰ってくれるわ。 たまに面倒みようという親切すぎる人がいたら、そのままベッドで寝ちゃえばいい」
コニーは楽しそうに編んでいたミッチの大きな靴下から目を上げて、くすくす笑った。
「なるほどね。 前はうちに来るお客さんはいつもヒルダが相手してくれたから、私は自分の部屋で好きにしていればよかったの。 姉さんに甘えすぎていたのね」
「ヒルダおばさんは誰にも負けない話好きだものね」
ジェンも笑顔になった。 もう再婚して去った育ての親を思い出しても、胸がチクッと痛むことはなくなった。
おばさんは今幸せだろうか。 几帳面な新しい夫と楽しく暮らしていればいいが。
ヒルダからは夏の終わりに、新郎のボブ・レイナーとの結婚写真を入れた手紙が来た。 妹のコニーほどではないが、ヒルダも相当な美人なので、ウェディングドレスで着飾ると堂々として見えた。
コニー宛のその手紙には、ジェンはそちらの暮らしになじみましたか? 幸せに暮らしていますか? と何度も書かれていた。 コニーが全部見せてくれたから、ジェンはヒルダの愛を久しぶりに感じることができた。
「ヒルダはきっと寂しいのよ」
コニーはそのとき、しみじみと言った。
「あなたと離れたら、私だってそう思う。 夫は大事だけれど、女には女の話し相手が必要なのね。 あなたが来てよくわかったわ」
まだ来たばかりであまり自信のない時期だったので、コニーの言葉はジェンにはすごく嬉しかった。 そして、子供ではなく女として対等に話し相手と認められたのが誇らしかったのを思い出せる。
やがて訪れたクリスマスの日々は、想像以上に忙しくて華やかなものだった。 まず、同学年の全員がエイプリルのクリスマスパーティーに招待され、イヴのイヴ、つまり二三日の午後にウィンタース家の美しい大広間で盛大に盛り上がった。
服装は、普段着以上なら何でもよかった。 もちろん通学着でもかまわない。 秘密パーティーということになっていて、参加者は入場料として、ひいらぎの小枝を持ってくる。 忘れると、中に入れてはくれるが、皆にやどりぎの下に連れていかれて目隠しされ、誰かにキスされてしまうのだった。
陽気な仕切り屋のエイプリルは、人を楽しませる名人でもあった。 どう説得したのか、学校の用務員でパイプオルガンの名手のアルフを単独楽団として連れてきていて、大広間のグランドピアノを任せ、彼の即興伴奏つきでゲームが始まった。
まず最初は、あなたのお名前は? という遊びだった。 客の人数がある程度そろったところで、まずエイプリルが適当に誰かを呼ぶ。
「リリー!」
呼ばれた者は、ぼんやりしている暇はない。 エイプリルが鉄砲玉のように走ってきて、どかないと膝に座ってしまうからだ。 大急ぎでとっさに思いついた名前を叫んで、立ち上がって自分も走らなければならない。
「マ……マージ!」
よしきた、とばかりに目を光らせて、マージは叫び返した。
「ルーク!」
「げっ」
思わず腰を浮かせたルークに、男子の野次が一斉に飛んだ。
「げっなんて奴はいないよ!」
「早く誰か呼ばないと、おまえマージのクッションにされるぞ!」
ルークの顔がくしゃくしゃになった。 その野次のようにマージは一直線に走ってくる。 あがってしまったルークは、蚊の鳴くような声でようやく言うと、あたふたと逃げ出した。
「ジョーディ」
その午後、珍しくジョーディはジェリーと連れ立ってパーティーに姿を見せていた。 二人で呑気にカウチに座っていたところへ、突然思いがけなく呼ばれたので、一瞬はっとした表情になったが、反射神経よくすぐに声を出した。
「ジェン!」
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