表紙
明日を抱いて
 59 また静かに




 ゴードン一家が汽車に乗ってサンドクウォーターの地を離れる日、たくさんの子供たちがジェンと連れ立って駅まで見送りに来た。
 これには日ごろクールなピーターも感激したらしく、発車間際まで遊び仲間の男の子たちの傍を離れず、何かぼそぼそ話し続けていた。
 ワンダにはエイプリルからジェンとおそろいの可愛い女性用懐中時計が贈られた。
「みんなの気持ちよ。 ちょっと早いけどクリスマスプレゼントにって、お金出し合って買ったの」
「まあ最高だわ、ありがとう!」
 感激屋のワンダは、ジェンと同じ品というのでいっそう喜んで、エイプリルとマージ、それにポリーやデビーにも抱きついて感謝した。 こういうとき一番はしゃぎそうなリリアンは、残念ながら風邪を引いて見送りに来られなかった。
 アンソニーはというと、やはり女子に囲まれていた。 男子の友達もけっこうできたのだが、女性ファンたちの圧力と団結力にはかなわない。 遠巻きにして見ていることしかできなかった。
「来年も来てくれたらうれしいんだけど」
 女子たちを代表して、キャロル・シモンズという大柄な娘がアンソニーに頼んでいた。 彼女は高校二年生で、普段なら中学生を子ども扱いしているのだが、村でアンソニーを見かけてからは弟のジョニーをだしにして、しょっちゅう川岸に来ては一緒に遊んでいた。
 アンソニーは社交的な笑いを浮かべ、そつなく答えた。
「来られたらもちろん飛んでくるよ。 今度の冬は本当に楽しかった」
 後半は少なくとも本音だった。 ここの子供たちは働き者の親に育てられ、実直で体力があり、ずるをしないので、一緒にいて気持ちがよかったのだ。
 見送りに来た子たちも、ゴードン三きょうだいのおかげで都会の若者をだいぶ見直していた。 少なくとも彼らが軟弱なしゃれ者でないことは確かだった。
 ゴードン一族が争うようにしてジェンを抱きしめ、煙を吐きながら出発する汽車から振るハンカチが次第に小さくなり、ついには見えなくなってしまうと、見送りの皆は仲良しグループに分かれて帰路に着いた。 目新しいゲームを教えてくれたアンソニーが行ってしまったので、男子は少し元気がなかったし、女子の一部も空気の抜けた風船のようにしおれていた。
 エイプリルやマージたちは、ジェンが寂しい思いをするだろうと気を遣っていた。
「ワンダがずっと一緒に寝泊りしてたんだもんね。 夜が静かになっちゃうわね」
「ええ、でもワンダのほうが気の毒よ。 私にはあなた達がいるから」
 そう答えながら、ジェンは改めて悟っていた。 そうなのだ、もう私にはここに友達がたくさんいる。 頼もしくて実行力のある、愉快な話好きの、そしていつも笑わせてくれる何人もの親友が。
 男の子っぽいようで実はよく気がつくマージが、不意に尋ねた。
「ミッチさん駅に来なかったけど、風邪引いた?」
 ジェンは急いで首を振った。
「いいえ、お母さんを気遣って、一緒に残ったの」
「え? コニーさん具合が悪いの?」
 今度はエイプリルが心配してくれた。 ジェンは心から明るい笑顔を浮かべて、そっと打ち明けた。
「ううん、とても元気よ。 ただ初夏になったら家族が増えるから、安定するまで無理しないようにって、ドクターに言われてるの」
 リリーはよくわからない様子だったが、勘の鋭いエイプリルはすぐ悟った。
「まあ、そうなの? 私赤ちゃん大好き!」






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