表紙
明日を抱いて
 57 楽しむ兄弟




 ゴードン一家は五日間、サンドクォーターに滞在した。 子供達はジェンやエイプリル達の紹介もあって、すぐ地元の子たちに溶け込み、アンソニーなどは最初見せていた豆紳士の仮面をかなぐり捨てて、陽気なガキ大将になって日がな一日遊んでいた。
 彼がいろんな遊びを考え付いて年下の男の子たちを連れまわすので、ジェンは初めはらはらしていた。 だがすぐ、ほとんど心配ないのに気づいた。 アンソニーは前以上に気配りがよくなっていて、騒ぎながらも子供たち一人一人に注意を払い、まるで小さな軍隊のようにまとめあげていた。
「驚いたわ、トニー(アンソニーの仇名)ったら、いつの間にあんな技を身につけたの?」
 さかんに感心するジェンに、ワンダが少し皮肉っぽく説明した。
「ウッドクラフト・インディアンズの教えに夢中になっててね、二週間ほど夏休みに参加して、先生のまねごとをしてたの。 それが気に入ったらしくて、来年もぜひ行きたいって」
 ウッドクラフト・インディアンズとは、動物記で有名なアーネスト・シートンがコネティカット州で始めた少年団で、先住民の素朴で地についた生き方を見習って自然と共に暮らそうという運動だった。 後のボーイスカウトの手本になったとも言われている。
 一方、弟のピーターのほうも、前とは雰囲気が変わっていた。 アンソニーより荒っぽい悪ガキだったのに、わずか半年見ない間に言葉の本当の意味で物静かになっていた。 前はただ無口なだけだったが、今では周りを鋭く観察して、たまにぽつんと言う言葉が怖いほど当たっていたりする。 もしかするとピーターは、優等生で知られるトニーより賢いのかもしれないと、ジェンは心ひそかに思った。
 それでも遊びがうまいのは、前と同じだった。 雪の中の蹄鉄投げという訳のわからないゲームをやると、常にピーターが勝ってしまう。 目がいいのと、蹄鉄を投げる角度をすばやく計算できるからだった。 蹄鉄がすぐ雪に埋もれてしまうので、半分は探し物競争になっていたが、それでも少年達は飽きもせずに騒ぎながらやっていた。
 ピーターはボール投げも得意だった。 それで新しく出来た仲間たちに【ピーター先生】と呼ばれるようになった。 ピーターが嫌がって理由を訊くと、少年達ははしゃぎながら答えた。
「ヴァン・ビューゼン先生と同じ名前だから」
 ピーターはきょとんとした。
「何者だ、ヴァン・ビューゼン先生って?」
「ゲインズフォード中学の教師だよ」
 そう言って少年たちは吹き出す。 ピーターはむくれて、にらみ返した。
「笑ってないで説明しろよ」
「ヴァン・ビューゼンはいい先生で、尊敬されてるんだ」
 それでピーターは少し安心したが、次の言葉で固まった。
「ボールそっくりの体型してるんだよ」
「ハンプティっていわれてるんだ。 転がったほうが早いよ、きっと」
「そんなもんと一緒にするな!」
 ピーターが怒鳴ったので、ジェンもマージと一緒にこらえきれなくなって笑った。




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