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52 密約の存在
ワンダはジェンと一緒に寝たがった。 でもジェンの部屋は狭いし、ベッドは棚のように細い。 それで仕方なく、二階の客用寝室で我慢することにした。
生まれて初めて半年も離れていた二人には、話すことがいくらでもあった。 それで客室のほうで声を忍ばせて、次から次へと情報交換していると、やがてランプを下げたコニーかやってきて、もう十時だから寝なさいと優しく叱った。
コニーがおやすみの挨拶をしてドアを閉めた後、ワンダは二人並んで座ったベッドの端で足をぶらぶらさせながら、目をくりくりさせて言った。
「最初に会ったとき、ほんとにびっくりしたのよ。 ジェンのお母さんって、見たこともないような美人じゃない?」
ジェンはあいまいに微笑んだ。 母を褒められるのはうれしいが、ちっとも似ていないのがわかっているので気持ちは複雑だった。
「そうね。 実は私もびっくりした。 写真は見たことあったんだけど、写真屋さんの写し方が上手なんだと思っていたの」
ワンダはくすくす笑った。
「そうよね、一流の写真屋さんほど修正がうまいものね。 だけどお母さんは本物だった。 どう思った?」
ジェンは少し考えて、率直に答えた。
「そうね、母は自分でも困ってる感じ。 全然目立ちたくない人だから」
「ああ、そうかも」
ワンダは考え深げな表情で、ジェンの肩に寄りかかった。
「物静かだものね。 内気っていうのかな」
「母はあなたに似てるわ」
さっきから思っていたことを、ジェンはさりげなく口に出して、ワンダをびっくりさせた。
「えっ? 私に? まさか〜」
「性格じゃないわよ。 見かけが」
二人は一瞬顔を見合わせ、プーッと噴き出した。 ワンダは特に大うけで、ジェンを叩きながらお腹をかかえた。
「性格ね! 確かに全然違うわ。 見た目だって、とてもあんな美人には……」
「いいえ、きっとそうなりそうよ」
ジェンは確信を持って言い切った。 ワンダはつやつやした黒っぽい髪の持ち主だし、ゴードン一家の持ち味のすっきりした鼻をしている。 今はそんなに目立たないが、年頃になったらめっきり光を放つタイプの美人顔だった。
「うわお、コニーさんみたいになれれば素敵だけどね。 舞踏会の女王になれるかも」
「デビューの写真を送ってね。 どんなに綺麗になるか、楽しみにしてるんだから」
「何言ってるのよ、あなたも一緒にデビューするのよ」
ワンダは当然という口調で、不意に言い出した。 ジェンはまずあっけに取られ、それから大きく手を振った。
「むりむり。 私は高校を出たら働くの。 社交界には縁がないわ」
「あるの」
ワンダはガンとして譲らなかった。
「ミッチさんがジェンを引き取りに来たときの条件だったの。 優秀なあなたを絶対に東部の一流大学に入れること、そして私の一年前か、できたら同じ年にデビューさせること、というのがね」
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