表紙
明日を抱いて
 48 打ち解けて




 ピーターはいつものように、ジェンと並んですべっていった。 赤ん坊のときから一緒なので、行動のリズムが自然に合うのだ。 だからエイプリルたちも無理せずに彼の速度についていくことができた。
「お宅の皆さんはスケートが上手なのね」
 人見知りしないエイプリルがピーターに話しかけた。 一方、ピーターのほうは初対面の人間にはあまり打ち解けない。 礼儀正しいが愛想のない声で、少し間をおいてから答えた。
「みんな運動が好きなんだ」
「うちはおばあちゃんがだめ」
 さばさばした口調でマージが話をつないだ。
「怖がりで動かないの。 私が梯子を上っただけで大騒ぎするのよ」
「母さんも少し怖がりだわ」
 ジェンがなにげなく話に加わった。
「気をつけてねっていつも言うの。 できるだけエイプリルやマージと一緒にいてね、男の子と二人きりにならないでって」
 するとピーターが低く笑った。 マージは彼の顔を見て、なんだか胸がどきっとした。 すましているときは近づきにくい感じだが、ほほえむとふっくらした下唇がやわらかく弧を描いて、彼は年相応にかわいく見えた。
「コニーさんはまだ知らないんだな。 怒らせるとジェンはすごいんだ。 山猫みたいになってさ。 ワンダのヒステリーよりよっぽど怖いよ」
「ワンダはヒステリーなんか起こさないわよ」
 ジェンも笑って言い返した。
「ピーターがからかうからじゃない」
「あいつすぐかかってくるから面白いんだ」
 そう言ってピーターがいたずらそうに口を曲げたとき、ちょうど話題の主が兄のアンソニーと一緒に前から戻ってくる姿が見えた。 ピーターたちを見つけて、アンソニーは大きく手を振り、速度を速めて追ってきた四人と合流した。
「向こうの水車小屋のところまで行ってきたよ。 景色がよくていいところだね」
「この間までは紅葉がすごくきれいだったの」
 無意識に、ジェンは故郷を自慢していた。 するとワンダは少し寂しそうな表情になって、幼なじみに寄り添って腕を組んだ。
「アディロンダックもきれいだったわよ。 でもあなたに会いたくて、向こうは一週間で打ち切りにしたの」
「まあ、ありがとう」
 ジェンは驚いて感謝した。 きょうだいの父親ジョージは、冬山での鹿狩りが好きなのだ。 それなのにわざわざ予定を繰り上げて尋ねてきてくれたのは、思ってもみない喜びだった。
「できればうちに泊まってほしいんだけど」
「全員は無理だな。 みんな体がでかいし」
 打ち解けた口調になって、アンソニーがウィンクした。
「でも私だけなら泊まれる!」
 ワンダはすっかりその気になって、ジェンの腕にぶらさがった。





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