表紙
明日を抱いて
 47 皆で滑れば




 ジェンがうまく出鼻をくじいたため、村の男の子たちとゴードン兄弟が喧嘩さわぎを起こすのは避けられた。 兄たちの実力を知っているワンダは平気な顔をしていたが、ジェンとしては同級生の男子がボクシングとレスリングでそれぞれ学校チャンピオンのピーターとアンソニーにボコボコにされるのを見たくはなかったので、最初に話しかけてきたのがルークで胸をなでおろした。
 ゴードン三きょうだいは、非常に体力があるのだ。 夏は水泳とヨット、冬はスキーやスケート、その他の季節でも山登りや球技をよくやる上に、社交界へ出る者としてポロ競技やダンスのレッスンまであった。 筋肉がつかないほうがおかしい。
 さっさとスケート靴を履き終わると、アンソニーとワンダはすぐ氷上に乗って、楽しそうにすべり出した。 教師について習っているため、靴さばきがきれいで、飛ぶように移動していく。 ジェンも二人についていきたくて、足がうずうずした。
 だがピーターは面倒くさそうに力を抜いて、ジェンのそばに立ったままだった。
「ジェンはもうすっかり溶けこんでるね」
「そう?」
 皮肉ともほめ言葉ともつかない言い方に、ジェンは陽気な笑顔で応じた。
「ここはここで、すごく楽しいのよ。 母さんは優しくしてくれるし、知り合いがたくさんできて、友達もいるの」
「ジェンならそうなると思ったよ。 人付き合いがうまいから」
「でもあなた達のこと、ずっとなつかしかったわ。 前の学校の友達も。 来てくれて、飛び上がりたいほどうれしい!」
 ピーターはうなずき、傍の木に寄りかかってスケート靴を履きはじめた。
「じゃ、そろそろワンダたちに追いつくか」
「ちょっと待って」
 ジェンは、遠慮してちらちらこちらを見ているだけで近づいてこないエイプリルたちに、大きく手を振った。
「ここに来て真っ先に親切にしてくれた親友たちを紹介させて」
 そう言って走っていくジェンを、ピーターは靴紐を結びながら見ていたが、彼女が嬉しそうに連れてきた二人の少女を目にすると、驚いた様子で思わず姿勢を正した。
「レイクウッドでお世話になったゴードンさんの二男で、ピーター。 こちらはエイプリル・ウィンターとマージ・フィッツロイよ」
 エイプリルは赤いセーターとおそろいの帽子で、茶色のジャケットにも赤い縁取りがついていた。 帽子からはみ出た金色の巻き毛がふわふわと肩を覆い、シュークリームのように愛らしい。 一方マージは自分で『緑虫』と言っているグリーンのコートとチェックのスカートだったが、赤みがかったブラウンの美しい髪によく似合って、まるで森の妖精のようだった。
 三人の美少女に囲まれて、さすがのピーターもたじたじとなった様子で、のっそりした口調でいちおう挨拶した。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは」
「サンドクォーターへようこそ」
 エイプリルとマージもやや興奮ぎみに答えた。 それもそのはず、しゃきっとしたミリタリー調コートと上等なマフラーを着たピーターは文句なくかっこよく、まるで男性用ファッション雑誌から抜け出してきたようだったからだ。
 マージは手をかざして、うねりながら木立に入っていくトレメイン川の中流を見渡した。
「お兄さん達すごい勢いですべっていったわ。 もう全然見えない」
「これから追いかけるつもりなの。 一緒に行かない?」
 二人は乗り気になった。 どちらも見かけより気が強く、スピードを出すのが好きだ。
「そうね」
「行こう!」
 ピーターを先頭に四人が氷に乗り出すのを、ルークたちは黙って見ていたが、目が合ったジェンが手を振ったのでようやく監視を止め、仲間同士で雪合戦を始めた。





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