表紙
明日を抱いて
 46 雪の川岸で




 大型の橇〔そり〕には、ゴードン家の全員が乗っていた。 ジョージとセリナのゴードン夫妻、アンソニーにワンダ、それにピーターの姿まであった。 アンソニーが身軽に下りてワンダを抱き下ろすと、ジェンはまずワンダときゃあきゃあいいながら抱き合い、それからアンソニーとも軽く腕を回しあった。
「ひさしぶり! 二人とも大きくなったんじゃない?」
 アンソニーはジェンの肩に手を置いたまま、少し体を離してしげしげと見つめた。
「そういうジェンこそ伸びたよ。 驚いたなあ、ぐっときれいになってる」
 どやどやと大人たちが下りてきて、かわるがわるジェンにキスした。
「ほんと、レディになったわね。 髪が伸びたからよけいにそう見えるのかしら」
 町にいたころ、ジェンは肩の辺りで髪をそろえていた。 だがこっちに来てからは、コニーの願いで切るのをやめていたのだ。 夏の間は暑いからお下げにしたが、寒くなってからは垂らして首周りを暖かくしていた。
 最後にゆっくり橇を離れたピーターは、相変わらず何を考えているかわからない顔をして、興奮する家族をながめていた。 ジェンは自分から彼に近寄って、遠慮なくぎゅっと抱きしめた。
「元気そうね」
 ピーターはきらっと目を光らせて答えた。
「ジェンも。 もっと田舎っ子になってるかと思ったら、そうでもなかったな」
 体にすっきり合ったコートを見下ろしてから、ジェンは格好をつけてくるりと回ってみせた。
「お母さんが作ってくれたのよ。 とっても器用なの」
 見ると、アンソニーとワンダはもう橇の端に座り込んでスケート靴をはいていた。
「いい氷じゃないか。 それに美人が一杯だ。 ジェン、紹介してくれよ」
 アンソニーは心から嬉しそうだ。 確かに今年のゲインズフォード中学は美女が多いそうで、近くの高校から男子が通学路をわざわざ遠回りして見に来るほどだった。
 アンソニーに悪気はなかったのだが、言ったタイミングと明るい声がまずかった。 そして、上等なスケート靴とハンサムな容姿も。 大きな橇が到着してから、少女たちはアンソニーとピーターを意識してそわそわしはじめ、一方の男子たちはスケートを中断して、あちこちで小さな固まりを作ってこちらをにらんでいた。
 ゴードン夫妻は少し不穏な空気を気にしていないようだった。 ジェンにマクレディ家への行き方を尋ね、ミッチには了解を取ってあるのでこれから訪問すると言った。
「あなたをびっくりさせたかったから、黙っていてくれと頼んだの」
「ほんとにびっくりしたわ。 びっくりしてすごく嬉しい」
「ジェンが幸せそうで、わたしたちも嬉しいよ。 一遊びし終わったら子供たちを連れて帰ってきてくれ。 われわれは先にミッチとコニーさんに挨拶しに行くからね」
 そう言い残して夫妻は陽気に手を振りながら、さっさと橇の向きを変えて去っていってしまった。


 橇の姿が消えると、赤毛のルークがぶらぶらとジェンに近づいてきて、積もった雪を爪先で掻き分けながら、ぼそっと話しかけた。
「なあ、こいつらスケートできるのか?」
 ジェンはすぐルークの袖を取り、あわてる彼を傍にいたピーターに紹介した。
「同級生の友達で、ルーク・ショネシー。 ルーク、この人はレイクウッドの友達で、ピーター・ゴードンよ。 こちらはワンダで、あっちはお兄さんのアンソニー」
「やあ、よろしく」
「はじめまして」
 アンソニーとワンダはあけっぴろげな笑顔で挨拶した。 照れ屋のルークはとまどい、小さくうなずいただけで退散した。
 





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