表紙
明日を抱いて
 45 懐かしい友




 ジェンは割り切れない気持ちで、ゆっくり川岸を離れた。 凍りつく風がカナダ方面から吹きつけて、小川の縁はシャーベット状に固まりかけていた。 やがて氷は両岸から川の真ん中まで達し、そこで合体して冬中融けない分厚い板となる。 そうなったらみんなでスケートができるな、と思ったが、予想したほど楽しくなかった。 やはりジョーディが不意によそよそしくなったので、いくらか気持ちが落ち込んでいるのがわかった。
「いいじゃない、あんな転校生なんか」
 自分も転校生だけど、まわりに溶け込もうと努力している。 ジョーディも男子には気さくだが、女子には近づきたくないのかもしれない。 しかし、それにしても……。
 内心ぶつぶつ言いながら斜面を登り、道に出たとき、茶色と白の暖かそうな帽子を耳まで下ろしたエイプリルとマージが、おそろいの赤い手袋を大きく振りながら小走りでやってきた。
「ジェン!」
「やっぱりここだ! さあ行きましょう。 ライ・ヒルで橇〔そり〕競技をするって」
「エディが出るのよ。 それにダグ・マッキンタイアも」
 エディ・ハントはジェンの組で一番のハンサムといわれている。 そしてダグ・マッキンタイアは生徒会長候補でサリーのライバルだ。
「へえ、じゃエディを応援しなくちゃ」
「そういうこと。 さあ急ごう」
 たちまち三人は雪を跳ね上げて走り出した。


 やがて寒さは本格的になり、家々の軒先にはつららが下がって、トレメイン川の氷はもう昼間の日光でも融けず、日に日に厚さを増していった。
 川の近くに住む子供達はスケート靴を履き、頬と鼻を真っ赤にしていつもの倍の速さで登校してきた。 東部っ子のジェンにアイススケートを教えようと楽しみにしていたマージたちは、ジェンが氷の精のようにすべるのでがっかりした。
「円だけならともかく、八の字が描けるって、すごくない? どこでそんなの習ったの?」
 あまり運動神経のよくないリリアンは、一緒に腕を組んでツーっと川を斜めに横切っては戻ってくるジェン、エイプリル、マージの三人組を見て、開いた口がふさがらない様子だった。 エイプリルが声を立てて笑って、悪びれずに答えた。
「ジェンが教えてくれたのよ。 東部で仲良しだった男の子たちとよく競争したんだって」
 それはゴードン家のピーターとアンソニーのことだった。 アンソニーは年上だから、余裕でいろんなすべり方を手ほどきしてくれたが、ピーターは同い年のライバル心で、いつもむきになってジェンを負かそうとした。 だから速度でかなわない分、ジェンは技術をみがいたのだった。
 やがて足の指先が冷えて感覚がうすれてきたため、放課後の遊びはおひらきになった。 寒さもあって、少女たちがだんごのように固まって道を歩いていると、道の彼方から鈴の音が近づいてきて、やがて大型の橇が見えてきた。
 ジェンはハッとして目をこらした。 同時に立派な橇の上でも毛皮のコートにくるまった姿がひとつ、ぴょこんと立ち上がり、声をからして叫んだ。
「ジェン! 来たわよ〜!」
「ワンダ! ワンダ!」
 ジェンは小躍りして、すぐ横にいたエイプリルに告げた。
「東部の友達なの。 わざわざ来てくれたんだわ!」
 ジェンが駆け出すと、ワンダもまだ完全に止まっていない橇から飛び降りて、転がるように走ってきた。





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