表紙
明日を抱いて
 43 雪の日曜日




 サリー・ニューウェルには生徒会長になりたい切実な理由があった。 ニューウェル家は中規模の農園をやっていいて、貧しくはないが、子沢山なせいで生活費がかさむ。 平凡な両親の長女として、なぜかとても賢く生まれついたサリーが高校に進学するには、ぜひとも奨学金が必要なのだった。
「課外活動でも優れていると通信簿に書かれれば、奨学金の審査委員会で選ばれることまちがいなしよ。 サリーはあんなにさっぱりした、いい人なんだもの。 一緒に高校・大学と進んでいきたいわ」
 エイプリルはきっぱりとそう言い、周りも協力した。 サリーとは違う意味で、エイプリルにも人をまとめる力があった。
 下級生の人気を集めるのは簡単だ、と、マージは考えていた。
「サリーの弟が二年に、妹が一年にいるわ。 二人ともニューウェル家の明るさ一杯で、友達が多い子よ。 サリー本人も年下に優しいから好かれてるし」
「ダグだって下級生にやさしいわよ。 女子限定で」
 キャスが鋭い意見を述べ、周囲はくすくす笑った。
「先生の見てないところでは、ちょっといばりんぼよね、ダグは。 でも確かに指導力はある」
「組の男子を一人ずつこっちの味方につけていきましょうよ。 ね、マージ、ハウイ・デントンはあなたにお熱なんだから、サリーに一票入れるよう頼んでよ」
 いきなりエイプリルにそう言われた瞬間のマージの表情は見ものだった。 ぎょっとなって眉が生え際につきそうなほど吊りあがっている。 マージはいつも落ち着いていて、あわてふためくところなんかこれまで見たことがなかったので、ジェンは内心で面白がった。
「ハウイって……ちょっとエイプリル、何考えてるの。 少しでもやさしい顔見せたら、つきまとわれちゃうじゃないの」
「そこは、つかず離れずでうまくやるのよ」
 リリアンがここぞとばかり大人ぶった。 姉が二人いるので、ませているのだ。
 みんなはエイプリルの屋敷の広々とした客間に陣取って、夕方になるまで楽しい作戦会議を続けた。


 翌日の日曜日、村にこの秋初めて、本格的に雪が降った。 朝、教会へ礼拝に行く間も雪は止まず、帰りには靴が埋まるほどになっていた。
 吹き溜まりでは五インチ(約十五センチ)ぐらいまで積もったので、子供たちははしゃいで橇〔そり〕を持ち出した。 マクレディ家には久しく子供がいなかったから、橇はない。 ミッチは今まで気づかなかったことを悔しがって、明日になったらカートの雑貨店に行って買ってこようと、ジェンに約束した。
 ジェンは別に、なくてもそんなに気にならなかった。 分厚いコートを着てコニーが編んでくれたマフラーと手袋を身につけ、ブーツをはいて、まだ真っ白でさらさらした雪を踏みしめながら、探検に出かけた。
 そろそろトレメイン川は凍りかけているだろうか。 ふとまた行ってみたくなった。 その時分にはもう雪はほぼ止んで、灰色の雲の間から薄青い晩秋の空が細く姿を見せ始めていた。
 寒い森の中は静まりかえり、たまに枝から雪の音がバサッと鈍く響くだけだった。 ジェンが誰も踏んでいない雪の小道をたどって歩いていると、川に出る前に人影が近づいてきて、聞き覚えのある声で呼びかけた。
「やあ」





表紙 目次 文頭 前頁 次頁
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送