表紙
明日を抱いて
 40 昼食の時間




 にぎやかに食べはじめた一同の中で、話題は自然と大きな新入生のことになった。
「あのウェブスターって子、大人っぽくない? 六フィート(=約一八〇センチ)ある校長先生と同じぐらいだったわよね」
 リリアンがそう言い出したので、ジェンは事情を説明しようとしてソーセージのかけらが気管に入りこんでしまい、真っ赤になって咳き込んだ。
「あらあら、焦っちゃだめよ」
 エイプリルがそう言いながら背中をさすってくれた。 すると横から首を突き出して、マージが面白そうに口を入れた。
「ジェンたらあの子に見とれてなかった? 気持ちはわかるけどね。 だって前に言ってた昔の彼にそっくりだもんね」
 えー〜〜! ほんとだ〜! という叫び声が一斉に上がった。 まだ口がきけないジェンは、目を白黒させて必死に首を横に振った。 だいたい、自分がどんな顔を『理想の彼氏』として話したか、本人がよく覚えていないありさまなのだ。
 恋愛話が大好きなリリアンは、さっそくぺちゃくちゃと話しだした。
「そういえば! 髪の色が濃くて波のようにうねってるし、顎がしっかりした顔だけど真四角じゃないし、目は……目の色まではまだわからないわよね。 近くに来てないから」
「やめてよ」
 ようやくジェンは声を出すことができて、ほっとした。
「そうじゃないの。 私が見てたのは、顔見知りだからよ。 きのうエイプリルとマージが先に帰ったでしょう? だから私ひとりで川を見にいったのよ。 そしたらあの子がいたの」
「川に?」
「ええ、なんか一人でぶつぶつ怒ってたわ。 その声がアールに似てたから、つい話しかけちゃったの」
「はーん」
 マージが片目をつぶったため、ジェンは少し焦った。
「ほんとに違うんだって。 前に好きだった人に似てるとかそんなのじゃなくて、まったくの偶然よ。 そしたらね、今度ここに入ることになったって言われたの」
 それからジェンは、ジョーディ少年がもうじき十五になることを皆に話した。
「それで怒ってたのかもしれない。 年下の子と同じ教室で勉強するなんて、ばからしいでしょう?」
「何か事情があったのね。 両親と旅をしていて学校に通えなかったとか」
 エイプリルが想像をめぐらせた。 するとそれまで黙々と食べていたキャスが、ぽつんと言った。
「行商人? それとも旅役者かな」
「だったらまたすぐ転校しちゃうかもしれないの?」
 デビーが寂しそうな声を出した。
「ずっといてほしいなあ。 大きくて喧嘩が強そうだもん」


 大きなバスケットに一杯入っていたおやつは、全部きれいに片付いた。 そばを通りかかった男の子も何人か、ひょいとつまんで食べていった。 マージは気にしなかったが、タルトをもう一つ食べたいと思っていたリリアンはふくれて、素早くかっさらっていったルークをにらみつけた。





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