表紙
明日を抱いて
 39 謎めいた子




 ジョーダン・ウェブスター少年がヒルワース校長と並んで教室の前に立つと、ほぼ同じ背丈だった。 女子が席を取っている教室の右半分でざわめきが起き、一部は男子席まで広がっていった。
 少年はゆっくり教室を見渡してから、よく響く声で挨拶した。
「ジョーディと呼んでください。 ジョーダンなんて言われたことがないもんで」
 彼の横をすり抜けて、問題を解き終わったジェンは自分の席に戻った。 その途中、何かが気になった。 それで座ってから少し考えて、思い当たった。 ジョーディ・ウェブスターの発音には聞きなれないかすかな訛りがあるのだ。
 そういえば、初めてこの土地に来たとき出会った生意気な男の子、デイルもこんな話し方をしていた。 あれから彼を見かけていないが、いったいどこの言葉なんだろう。
 ジェン自身は小さいときから中西部ふうの話し方を身につけていた。 育ててくれた伯母がここの出身だったし、ゴードン一族もオハイオ州の出で、生粋の東部人ではなかったからだ。 だから東部ではときどきからかわれることがあって、方言を意識するようになっていた。
 気づくと、編入生のジョーディは生徒たちの机の間をぬって、後ろから二列目の空いた席に腰を下ろすところだった。 彼の後部席になったのっぽのジャッキー・ベイリーが、さっそく鉛筆で背中をつついて、何か話しかけていた。 ジョーディは緊張した様子もなく、ゆったりと椅子の背もたれに肘を掛けて、背後に耳を傾けながらときどきうなずいていた。


 間もなく昼休みになった。 天気がよかったので、男の子たちの大部分は弁当を持って外に出て行った。 新入りのジョーディは、もうジャッキーと気が合ったらしく、大きな口を開けて笑いあいながら、バンダナの包みをぶら下げて木陰に向かった。
 席が窓際のジェンが、また見るともなく二人を見ていると、友人たちがいつものように集まってきて、肩越しに外を覗いた。 マージがポンとバスケットを机に置き、上にかぶせた布を取って中身を出しはじめた。
「今日は私の番よ。 えーと、梨のタルトとジンジャークッキー、それにクーガンさんお手製の銀色キャンディー」
「やった! クーガンさんのタルト大好き」
 また隣のクラスから紛れ込んできたリリアンが、目を輝かせた。 仲良しグループはみんな中流以上の家庭で、しかも親か料理人がケーキを焼くのが上手なので、いつの間にか回り持ちで全員の分のおやつを作って持たせるのが習慣になっていた。
 これはエイプリルたちが友達に差をつけているからではない。 クラスにはサリー・ニューウェルという賢くて明るい女生徒がいて、最上級生になったらきっと女性初の生徒会長に選ばれるのではないかと言われる人気者で、エイプリルのグループとも仲がよかった。 それでもサリーはドラッグストアでの集まりには来ないし、おやつ会にも加わらない。 母が亡くなったので妹たちの面倒を見なければならないからだ。 人にはそれぞれ事情があるのだと、生徒達は幼いときから経験で悟っていた。
 





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