表紙
明日を抱いて
 36 川への道で




 アールがいなくなった後、ポリーはしばらく元気を失っていた。 けっこう本気で好きだったらしい。 エイプリルはそんなポリーを気遣って、村の雑貨屋でクリームソーダを飲むときなどに、よく声をかけて一緒に行った。
 あいかわらず、エイプリルとマージとジェンは鉄壁の親友同士だった。 三人を中心にリリアンがよく混じり、キャスとポリーは入れ替わり現れた。 彼女たちは雑貨屋の常連で、特に週末の金曜日は必ずといっていいほど訪れるので、店主のカートは生徒たちの姿が見える前にグラスの準備を始めるほどだった。
 十月が終わりに近づくと、一気に秋が深まり、気温が下がってきた。 娘達の注文は冷たいソーダからミルクたっぷりのココアに替わり、奥の小さなテーブルに群がって、学校で話しきれなかった様々な話題に花を咲かせた。
 最近はもっぱら期末試験のことと、その後に待っている楽しいクリスマス休暇についてだった。 エイプリルとマージはどちらも優等生で試験は余裕な感じらしく、ジェンに先生たちの問題の出し方について助言をくれた。 ジェンはありがたく聞き、頭の中にしっかりメモした。 一方、成績をあまり気にしていないポリーは上の空で半分も耳に入れず、キャスはむっつりした顔で聞いているのかいないのかわからなかった。


 やがてサンドクォーターに初雪が降った。 さらさらした粉雪は、午前中わずかに白く積もっただけで、生徒達が帰る時間にはすっかり消えてなくなっていた。
「これはほんの手始めよ」
 まだ湿っている土をつま先でつつきながら、マージがジェンに言った。
「ミシガン湖のおかげで、ここらは州内では暖かいほうなんだけど、それでも真冬にはトレメイン川が凍りついて、スケートができるの」
 トレメイン川とはマスキーゴン川の小さな支流で、通学路から少し離れた森の脇をゆっくりと蛇行して流れていた。


 その翌日の水曜日、ジェンは珍しく一人で帰ることになった。 エイプリルとマージが町にいる知り合いの子の誕生パーティーに呼ばれて、早退したからだ。 隣のクラスのリリアンたちを誘って帰ることもできたが、ふと思いついた。 これは誰にも気を遣わずに探検できるチャンスじゃないか。
 そこでジェンは、目立たないように学校を早く出て、いつもは通らない小道に入った。 もう近所の地理には慣れたので、目印になる建物や樹木、丘の形などを覚えていて、迷子になる心配はない。 自信を持って歩いていくと、紅葉に美しく彩られた森が見えてきた。
 ジェンが目指したのは、トレメイン川だった。 もうじき凍ってしまうという小川が普段はどんな様子なのか、じかに見てみたいと思った。
 落ち葉を踏みながら楽しい気分で歩いていると、不意にドンという音がした。 物と物がはげしくぶつかったような、険しい音だ。 続いて男の罵り声が聞こえた。
「くそっ! 畜生!」





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