表紙
明日を抱いて
 33 憧れの男達




 ポリーが夢見るように言うには、濃い色の髪が好きなのだそうだ。
「黒、そうでなきゃうんと濃い茶色かな」
「真っ赤っ赤っていうのもあるわよ」
 マージが口を入れると、ポリーはすっぱいものを食べたような顔になった。
「真っ赤って濃い? めちゃくちゃ派手な気がするけど」
「で、目は何色がいい?」
 わかっていてエイプリルが訊くと、すぐポリーは乗ってきた。
「やっぱ青。 澄んでていたずらそうで」
「アールだ!」
 マージとエイプリルが最後まで聞かないで声をそろえた。 ポリーははにかんでいたが、否定はしなかった。
 するとリリアンも言い出した。
「私はジェンみたいな髪が好きだな。 金褐色に金の筋が混じってるのが」
「じゃ、一人しかいないじゃない」
 それまでおとなしくしていたデビー・マクナリーが不意に言った。 デビーの家はミッチと同じにスコットランド系なので、ジェンとは家族ぐるみで仲が良かった。 鼻の上にうすくそばかすの散った可愛い子だ。
「リリアンが言ってるの、アルフのことだよね」
 えぇ〜? といっせいに声が上がった。 名前を聞いて、ジェンはすぐ思い出した。 たしか中学の用務員で、パイプオルガンを弾く人だ。 まだ逢ったことはないが。
「ずっと年上じゃない?」
「うん」
「彼、ひょろ長いよ」
「うん」
「手もでかいし。 それに、ほとんど口きかないし」
「そんなこと、ないよ」
 不意にリリアンがむきになった。
「私、話したもん。 ヨーロッパへ行く夢を一杯語ってくれたわよ」
 周りがびっくりして顔を見合わせていると、リリアンはすぐしおれて付け加えた。
「たぶん私が黙って聞いてたからだと思うけど。 すっかりしゃべり終わったら、じゃ、さよなら、ちびさん、しっかり勉強するんだよって」
 マージは遠慮なく吹き出した。 ポリーとエイプリルも笑顔になったが、どことなく微笑ましげだった。
 もう一人、仲間になってついてきたキャス・ムーアは、男の子なんか興味ないと言った。 それで突然、ジェンに順番が回ってきた。
「ジェンは? 東海岸で好きな人、いた?」
 うわー、厄介なことになった。
 ジェンは内心困った。 そんな人いないと言えば、しらけた雰囲気になる。 キャスが空気を壊した後だけに、何か言ってほぐしておきたかった。
「えぇと、まあね」
 たちまち全員の注目の的になった。 なぜかキャスまでが耳をそばだてている。 人の恋には興味あるらしい。
 ジェンは素早く組の男の子たちの姿を思い浮かべた。 そのうちの誰にも似ていないようにしなければならない。 まず髪の色は……
「髪は黒っぽくて、大きく波打っていて、水に濡れるとカラスみたいに真っ黒になるの」
「ふうん、なかなか素敵じゃない?」
 さっそくリリアンが乗ってきた。 ジェンは微笑みを返している間に続きを考えた。
「目は緑色。 わりと濃い色で、大きくて、つやつやしてる。 顎はしっかりしてるけど、顔は四角くないの。 すらっとした体つきで、背は高いほうよ」
「ハンサム?」
「そうね、私には」
 行きがかり上、そう答えてしまった。 どうせ架空の人物だ。 髪と目の色をのぞけばゴードン家のピーターに似ている気がするが、彼がここに来ることはないだろう。 アンソニーならワンダを連れて夏に来てくれそうだけれど。





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