表紙
明日を抱いて
 32 無難な初日




 新しいクラスは、まず自己紹介から始まった。 若いヴァン・ビューゼン先生は、こっけいな登場の仕方をしたわりには物に動じない様子で、さばさばと生徒を指名しては、名前と好きな学科を言わせていった。
 ジェンは二十一人の組で四番目に指名された。 それですぐ立ち上がり、しっかりした口調で言った。
「ジェニファー・マクレディです。 好きな学科は英語と社会」
 実は嫌いな学科というものがなかった。 どれもまんべんなく勉強して、前の学校ではほぼ全A、たまに地理でBを取るぐらいだった。 土地の情報を知るのは好きなのだが、先生が丸暗記させるタイプで、授業があまりにも退屈だったのだ。
 ヴァン・ビューゼンはうなずき、小鳥に似た黒くてつぶらな目で、ジェンをまっすぐ見た。
「転校生だね。 もう友達がたくさんいるようだが」
「はい」
 ジェンは明るく答え、周りの知り合いたちは彼女に笑顔を送った。
「僕はピーター・ヴァン・ビューゼン。 得意科目は理科だが、英語も教えている。 よろしく」
 ジェンは目を丸くしそうになった。 先生から対等に挨拶をし返してもらったのは初めてだ。 この先生は好きになれるし、尊敬もできそうだ。 幸先のいい出だしで、ジェンは嬉しくなった。


 もちろん、何もかも完全にうまくいくということはなかった。 例の双子は両方のクラスに分かれて入れられ、ジェンの二つ横の席にアールが脚を投げ出して座っていた。 前髪がぼさぼさでむっつりした顔をしているので初対面ではわからなかったが、横を見るたびに目に入る顔立ちは鼻筋が通って、なかなか整っていた。 だからといって、ジェンが心を動かされるわけではなかったにしても、彼はけっこうハンサムと言えた。
 自己紹介が終ると、すぐ英語の授業が始まった。 ロングフェローの詩を読むヴァン・ビューゼン先生の声は、そう大きくないのに教室の端から端まで届いた。 しかも、うまい。 ジェンはうっとりして目を閉じたが、いびきが聞こえたので横を見ると、アールが机に寄りかかって寝込んでいた。


 午後にすべての授業が終わると、生徒達はばたばたと持ち物をまとめて、帰宅する支度にかかった。 行きがけは四人でやってきたジェンたちは、帰りには七人もの大集団になって、カケスの群れのようににぎやかに、埃っぽい道を歩いていった。
 リリアンも、もちろん加わった。 昼食のときも隣の教室を抜け出して、エイプリルやジェン、マージと一緒に、お弁当の分けっこをして楽しく過ごしていたのだ。
「あっちのクラスは、すごく地味なの。 先生もぶっきらぼうだし。 あーあ、早く来年になって組替えしないかな〜」
「バロンもあっちだしね。 あーあ、よかった。 あの子のほうがアールより性悪だもの」
「先生たちもわかってるのよ。 だからいつも別々のクラスに入れるでしょう?」
 リリアンとエイプリルが情報交換していると、リリアンと同級のポリー・エイキンが可愛らしい声で割り込んできた。
「でもね、あの二人、きれいな顔してるわよね」
 それを聞いて、エイプリルとリリアンは同時に鼻を鳴らした。
「えー、あんな顔がいいの?」
「それをいうなら、お兄さんのデュークが断トツよ。 誰だっけ、デュークのこと『ライオンの騎士』って言ったの」
「デュークじゃちょっと手が届かないから、アールぐらいならいいかな、なんて思ったんだけど」
「ふーん、ああいうのが好みなんだ」
 女の子たちの足が急に遅くなり、興味深い男の子の噂が始まった。





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