表紙
明日を抱いて
 30 荒くれ兄弟




 ジェンは少し緊張して、男三人対女四人の火花散るやりとりを眺めていた。 といっても実際にはアンバー家の双子とエイプリルが対決しているわけだが、この口のへらない男の子たちがどんどん言いつのっていくようなら、ジェンもびしっと言い返してやろうと思い、痛手になりそうな言葉をせっせと頭の中で探していた。
 だが言い争いは思いがけない形で、けりがついた。 それまで銅像のように立っていただけだったアンバー家の三人目が、いきなり動いたのだ。 彼はものも言わずに前にいる双子の頭を片手ずつでつかむと、目の前でドンと鉢合わせさせた。
「いてっ」
「あにすんだよ!」
 すると金髪男は、どすのきいた声を双子にあびせかけた。
「面倒を起こすなと言っただろう。 ミス・ウィンターズにあやまれ」
「ミス・ウィンターズだって!」
 先にエイプと言い出したほうの子が、奇声を上げた。 とたんに今度はゲンコツが飛んできた。
「さっさとあやまれ! 授業が始まっちまうだろうが」
 男の子は顔をくしゃくしゃにし、うらめしそうに頭をさすりながら、ぼそっと呟いた。
「わるい」
「なんだと?」
 一段と背の高い金髪男、つまり長男のデュークが顔を近づけてどなったため、男の子は声を大きくして、やけっぱちでわめいた。
「わるかった!」
「そうだ」
 デュークはひとつうなずき、女子たちには目もくれずに向きを変えて、さっそうと校庭を出ていった。
 残されたアールとバロンは、肩を組んで歩き出した。 周りの生徒達がちらちら見ると、すごい目つきで睨みかえす。 マージはあけっぱなしにニヤニヤ笑っていたが、ジェンは真顔でエイプリルに尋ねた。
「いつもあんななの?」
 エイプリルはつんと顎を上げ、ジェンと腕を組んで、双子が入っていった玄関とは違う入り口を目指した。 マージとリリアンも手をつないでついてきた。
「五年生になったときに、あんなこと言い出したのよ。 それでもう三年も言いつづけてるの。 ほんとにしつっこい奴!」
「どっちがバロンで、どっちがアール?」
 ジェンの次の質問には、後ろからひょいとマージが顔を突き出して、玄関の柱に寄りかかっている双子をわざと指差しながら教えてくれた。
「右がバロンよ。 初めにエイプリルをからかった子。 よく似てるけど、見分けはつくわ。 バロンは右目の横にほくろがあるの。 で、アールは左手の甲にかぎ型の傷がある」
「ほくろがバロンで、手の傷がアールね」
 ジェンは確認した。 リリアンがはしゃぎながら言った。
「それにしてもデュークはかっこいいじゃない? さすが長男ね」
「デュークにはちょっと同情するわ」
 マージがふざけたしゃべり方をやめて、まじめに言った。
「この中学で生徒会長するほど優秀で、人気があったのよ。 でも高校に進学できなかったの」
「お父さんが大酒飲みでね、デュークが夏に出稼ぎして貯めた学費を使っちゃったんだって」
 そうリリアンが小声で付け加えた。





表紙 目次 文頭 前頁 次頁
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送