表紙
明日を抱いて
 27 情報交換で




 昼食が終ってジェンが台所に行くと、コニーはタオル二枚とバンダナでくるんだ包みをバスケットに入れて渡してくれた。
「ごはんの後片付けはいいわ。 もうじき二時になるわよ。 これ持っていきなさい」
「ありがとう! 暗くなる前に戻ってくるわ」
「そうしてね。 エイプリルの家はしつけが厳しいから、大丈夫だと思うけど」
 そこへひょこっと勝手口が開いて、ミッチが頭を突き出した。
「友達が門のところへ迎えに来てるぞ」
「はい」
 ジェンが急いで帽子をかぶっているそばへ来て、ミッチが面白そうに囁いた。
「おれが物置から出てきたら、二人ともちゃんと挨拶したぜ。 なんとなくびくびくしてたがな」
 あの人たち、私の言ったこと信じてくれたんだ──ジェンは胸をなでおろした。 義理の父は無愛想にみえるが、心はとってもいい人なのだ。 わかってもらえて、どちらのためにも嬉しかった。


 母が作ってくれた青い服を着た姿で、ジェンは日盛りの戸外に出た。 表門は開いていて、ジェンが見えたとたん、エイプリルとマージがきゃあきゃあ言いながら手を振るのが見えた。
 ジェンは走って二人と合流し、肩をぶつけるぐらいくっついて歩き出した。 昨日逢ったばかりとは思えない。 みんな先を争って話し、笑いあい、湖へ着くまでの十分ほどで、ジェンは近所の人々の顔と名前と罪のない噂を聞き、エイプリルたちは町でドレスや靴を買うと信じられないほど高いのを知って、溜息をついた。
「よそいきのワンピースが五○ドル? 信じられない」
「ばかみたいでしょう? それもデパートで買った値段よ。 仕立て屋さんなら倍はするって。 私の行ってた学校では制服だったから助かったわ」
「お嬢様学校?」
「ううん、そんな学費はなかったもの。 普通の町の学校。 生徒がたくさんいてね、授業が終るたびに廊下が人だらけになった」
「男の子もいた?」
「いたわ、面白い子も悪い子も。 裏庭でタバコを吸って、鞭〔むち〕でぶたれた子がいた」
 マージが思い出して言った。
「うちの学校にも男の子いるわよ。 それに鞭でぶたれた子も。 アーセンさんとこのりんご園に入ってごっそり盗んだの」
「へえ、どうしてばれたの?」
「かわいがってた馬にやってね、食べすぎで馬がおなかをこわしたから」
 ジェンは吹きだした。 きっとおいしいりんごだったにちがいない。
 マージとエイプリルは、もうすっかり『町の子』への警戒を解いていた。 それはジェンが都会の話をしても、軽々しく自慢するようなところがなかったからだ。 流行のドレスや新型の自動車を知ってはいたが、ただ淡々と口にするだけだった。
 だからエイプリルは、さっきから気になっていたジェンの服に話を移した。
「今日の服、すてきね」
 すぐジェンは顔を輝かせた。
「母さんにもらったの」
「やっぱり」
 マージが賢いふくろうのような表情をしてうなずいた。
「コニーさんは手先が器用で有名だもんね。 おととしベビードレスをバザーに出したら、取り合いの騒ぎになっちゃったのよ」
 誇らしい気持ちで、ジェンはピンタックを取った服の胸元に触れた。
「私も自分の服を作れるようになりたい。 もっと縫い物の練習しなくちゃ」





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