表紙
明日を抱いて
 26 家族の一員




 やがてミッチも、早朝の一仕事を終えて手を洗って戻ってきて、三人は朝食を取った。 ジェンは母と義父とかわりばんこに顔を向けて、まだ目にしていないミシガン湖の情報をもらおうと話しかけた。
「湖なのに砂浜があるの?」
 ミッチはなぜか得意そうな表情になった。
「ミシガン湖は小さな海みたいなもんだからな。 世界でも大きなほうなんだぞ」
 そのときコニーはパンにすぐりのジャムを塗っていたが、目をぱちぱちさせて口を開いた。
「でもね、スペリオル湖のほうがもっと大きいそうよ」
 とたんにミッチはむきになった。
「面積はな。 でもずっと北にあってミシガン湖ほど使い道がない」
 コニーは笑いを隠してうつむいた。 なんとミッチをちょっとからかってみたらしい。 おとなしい母にもけっこうユーモアがあるのを知って、ジェンは楽しくなった。
 

 食事を終え、後片付けを手伝ってから、今度はミッチに従って農場を一巡することになった。 その日もよく晴れていて、昼過ぎにはむっとするほど暑くなる予感がした。
 まず牛の群れを眺め、次にとうもろこし畑と大麦の畑に連れて行ってもらった。 途中、コニーが主に世話をしている野菜畑も通った。 そこでは夏の間、葉物野菜や二十日大根、じゃがいも、人参、ベリーなどを育てて、食卓の彩りにするのだという。
「ここらへんの女房たちは庭には花を作りたがる。 窓辺でハーブなんかちょこっと作ってるぐらいで、こんなに本格的に世話をしてる女はほとんどいないよ。 コニーは働き者なんだ」
どうやらミッチが深く愛しているのは、妻とミシガン湖らしい。 それと、目の前に広がる手入れのいい畑と家畜たちだ。 帰り際、鶏小屋で卵の採り方を教わりながら、ジェンは自分もミッチに影響されて、この土地が早くも好きになっているのを感じた。


 やがてミッチは牛の世話を始め、ジェンは一人で家に戻った。 昼ごはんはだいたいいつも一時ごろだという。 ジェンは母に頼んで炒り卵を作らせてもらい、じゃがいものフライに付け合せた。
 気がつくと、皿に次々と盛りつけていくジェンの手元を、コニーがじっと見つめていた。 そして、顔を上げたジェンが問いかけるように小首をかしげると、やわらかい声が返ってきた。
「料理が好き?」
 たちまちジェンは顔を輝かせた。
「ええ、まだそんなに作れないんだけど、うまくなりたい。 食べるの大好きだし」
「じゃあ」
 そこで母の言葉は喉にひっかかるように一瞬止まったが、すぐ気を張って、なんとか言い終えた。
「パンプキンパイとか、果物のタルトとか、作ってみたい?」
 ジェンは、もうにこにこが止まらなくなった。 じわっと唾まで出てきた。
「すっごく!」
 母は再び、激しく瞬きした。
「じゃ、明日の午後に、桃とチーズのタルトを作りましょう」
 そして、うんと小さな声で付け加えた。
「一緒にね」






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